一章


夏も過ぎ肌寒くなった秋の夕暮れ
土方は一人、かぶき町の大通りから外れ人通りの少ない路地裏を見廻っていた

土(ここは特に何もなさそうだな・・・)

数分前からずっと変わらないコンクリートと塀の景色
さすがの土方も同じ景色に誰とも会うことのない道を歩き続けるのはやる気が失せる

土(引き返すか・・・)

そう諦めかけ、服の中から煙草とライターを取り出す
・・・が


「ありがとうございましたー、またきてくださいね、旦那ぁ」

突然聞こえてきた若い男の声に土方はとっさに壁の隅に隠れる

土(こんなとこに・・・何の店だ?)

土方は疑り深い目で客であろう男と、店の前で
依然見送りをしている男を見る

それもそのはず、こんな路地裏、しかも土方が歩いてきた道のりで、
人っ子一人出会わないような場所にあるのだ

土(看板・・・店名が見えねぇな)

土方の視力ではどれだけ目を凝らしても見えなかった
―――そして、気づくことができなかった

彼の気配に――・・・




『あの、何やってるんですか』
土「っっ!!?」

いきなりの背後からの声にとっさに振り向くが


パラ・・・


ゆっくりと地面めがけて落ちていく毛先
目の前には夕焼けの橙を反射し、美しく光る銀色の刃

『うちに何か用でも…?』

前髪から覗く漆黒の瞳は訝しげに細められる

土「・・・用といっちゃあ用だな、んなことより廃刀令のご時世に
何物騒なもん持ち歩いてんだ、しょっぴくぞ」
『え?俺はちゃんと許可もらってますよ、〈沖田〉から』

言いながら土方に向けていた刀を鞘に収める

土「あ?沖田って・・・」

土方は眉間に皺を寄せ、男に確認する

『ん、その服真選組ですよね、だったら知ってるはずですが…、沖田総悟のこと』
土「・・・総悟と、知り合いなのか」

二人の関係性が全くわからないと言いたげな表情を浮かべる土方

『知り合いっていうか俺のお得意さんです
まだまだ若いからお金はあんまりとってないですが』
土「お得意って・・・お前あれか?男娼」

問いながら自分の部下の将来を心配する

『はい、あそこの《雪桜》で花魁やってます、一応』

土(花魁・・・か)


改めてよく見るとこの男、超絶美人である、細く引き締まった体に程よくついた筋肉
墨で塗りつぶしたかのような瞳に、同色のなめらかな髪が
白い肌をさらに引き立たせる
さらに、長い髪を緩く一つにまとめ肩に垂らしているため
パッと見は女にしか見えない

『ところでうちに用って…?
まさかその歳で道に迷ったとかは』
土「んなわけねえだろ!!
ただあれだ、巡回中に偶然見つけて少し怪しかったからな・・・」

口の中が寂しくなったのか、煙草を咥えライターで火をつける土方にこちらは・・・




『・・・・・プ』

思わず吹き出した

土「おいなんで笑った?今笑うとこなんてなかったよな?馬鹿にしてんのか?」
『え、なんですぁ?誰も笑ってませんよ、思い込みです、思い込み』
土「今確実にプっつったろ!!」
『・・・・・・・・・・・屁です』←キリッ
土「嘘つけぇぇぇぇぇぇ!!!」





―――――秋の夕暮れに土方の叫びが響いた

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