とにかく誰でもいい。俺に尽くして欲しいんだ。欲に溺れた天使のような瞳で、あるいは、小悪魔のような妖しい目つきで、舐めまわすみたいに俺を見て欲しい。艶かしい唇を、俺の首筋に這わせてはくれないだろうか。俺の中の何かが満たされるまで、一心に。嘘にまみれた愛の言葉でもいい。俺を満足させてくれ。
―そんな事ばかりを考えながら、つまらない毎日を過ごしていたら、周りの人間はいつからか俺の事を「女たらし」だとか「遊び人」だとか、そんな風に呼ぶようになっていた。そんな俺を忌まわしく思い、遠ざける奴等もいた。でも反対に、その称号を惹かれて寄ってくる女達もいた。俺は来る者を拒まないから、毎日そういう奴らと楽しく遊んでいた。こいつらの中に、俺を救い出してくれる女神のような奴がいるだろうか、なんて淡い期待を抱きながら。
まるで俺の体のどこか重要な部分にぽっかり穴が開いているような感じだ。その穴は日に日に大きくなっていく。荒んだ風が腹の空洞を通り抜けていく間、俺はずっとある事を願っている。本当は、救われたい。俺の汚いものを全部拭い去ってくれるような、純白で穢れを知らない子とキスをしたい。利己的な愛欲を忘れてしまいたい。誰か俺を、まともな世界へ連れて行ってはくれないだろうか。

「え〜。今さら清純ぶったって遅いッスよ、丸井センパイ」
赤也が滑稽なものを見るような顔でニヤリと笑って俺を見た。俺はその顔がやけに気に食わなかった。多分赤也は自分と俺を同類だと思ってるんだ。性欲の塊みたいな自分と、救われたいだけの俺を。
「はぁ?俺は元々清らかなんだよ」
言うと、赤也は堪えられずに笑い出した。
「何言ってんスか!ありえないッスよ〜経験豊富なくせに」
「あー違う違う。俺はお前と違ってただヤりたいだけって訳じゃねーの」
「女とっかえひっかえでよく言いますよ。俺なんかモテないから必死ッスよ」
羨ましいったらないッス。赤也が笑って言った。感情のこもらない目をして。赤也の話す敬語には何の尊敬も含まれていない。ただ単なるオプションといった感じだ。きっと赤也は俺のことを馬鹿にしている。現実に目を背けて理想ばかりを語る俺を、嘲笑しているんだろう。
「あ、俺これからカノジョとデートなんで。お先ッス!」
そう言うと赤也は、相変わらずニヤニヤしながら部室を出て行った。
「うぜえ・・・」
俺の声は扉が閉まる音にかき消された。赤也が出て行った後、一人残された部室に居心地の悪さを感じ、テニスバッグを担ぐと、赤也と同じように早々とドアへと向かった。外に出てみるとテニスコートの向こう側に、赤也と赤也の言っていた“新しいカノジョ”の姿を見つけて、ついまじまじと見つめてしまった。
ふーん。赤也にしては、まあまあ可愛いじゃん。ていうか結構可愛いじゃん。
赤也の手が彼女の細くて白い腕に伸びた。手を繋ごうとして、照れながらも微笑み合う二人の姿を見て、いやに気分が悪くなった。
もしかしたらあの子が、俺をこの世界から連れ出してくれる救世主なのかもしれないのに―。俺はぼんやりと、赤也の汚い手に触られる前に、彼女を奪い去ってしまいたいと思った。でもやっぱり、彼女の無垢な笑顔をこの手で傷つけてみたい、とも思ったりしていた。

(080514)
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