名前がどこか遠くに行ってしまう夢を見た。名前が好きだと言ってくれた僕の漫画も、名前の好きなアイス屋もない、僕の知らないどこか遠い場所へ。

それを話すと名前は「わたしはどこにも行かないよ」と言って、僕の頬をやさしく撫でて、その手をそのまま背中に回した。キャミソール一枚という薄着のままの名前に、胸元へ頬ずりされてるところを他の誰かに見られたら僕はおしまいだ、といつも思う。例えそれが友達の康一くんでも。くそったれ仗助なんてもってのほかだ。
でも拒めないのも事実だし拒む理由もないのだ。だって名前は…その、あれだ。…可愛いし。それに僕の彼女なんだから。だけどやっぱり照れくさいから、普段ならすぐに、絡まりついてくる名前を引っぺがして僕はさっさと服を着て仕事の準備をするのだけど。いつもと同じようにそうしようとしたら名前が、あと数秒遅かったら聞き逃してしまっていたかもしれないくらい小さな声で呟いた。
「先生がいない所なんて わたし 行かないわ」
鎖骨が名前の甘い吐息で少し湿った。ああ、コイツには。コイツは。
名前には僕がいないとダメなんてこと、ずっと前から分かってた。でもそうじゃなかった。それだけじゃなかった。どちらかと言えば、もしかしたら、僕にこそ名前がいないとダメなのかもしれない。僕には名前が必要だ。それも絶対的に。名前を手離すのがこわいから、僕はあんな夢を見たのかもしれない。
猫みたいに擦り寄ってくる名前を抱き寄せた。いつもと違う雰囲気に戸惑ったのか名前が「露伴先生?」と僕の顔を覗き込もうとしたので頭を抑えて阻止した。
「どうしたの?」
「…そのまま聞いてくれ」
女に優しくしたりとか、そういうことが得意じゃない僕だから。こういう時どんな顔したらいいのか分からなくて。それにきっとこのうるさいくらいの心臓の音は、名前には全部聞こえてしまっているだろうけど。
「…僕と結婚してくれないか」
名前は腕の中でぴくりと動いた。僕の一世一代の告白を聞き終えると名前はすぐに僕の腕から逃げ出してベッドを降りて、そこに立ち尽くし僕を見つめた。
「な、なんだよ。嫌なのかよ…」
思ってもいなかった反応に僕は焦りと不安を隠すことができず、まっすぐにこちらを見つめてくる名前から視線を外して、突き放す言い方をした。すると名前は「違うの、違うの 露伴先生」と言いながら、何度もくり返し首を横に振った。見ると今にも泣き出しそうなほど瞳をうるませていた。
何をするのかと思ったら、もう一度ベッドに入ってきて、僕の首に腕を回して無理やりキスをした。勢いでぶつけられた唇が痛かった。嬉しいくらいに。何度も何度も慣れないキスをくり返して、息が上がった肩を上下に揺らしながら、名前はぽつりぽつりとつぶやき始めた。普段より一層か細く、抱きしめたくなるような、愛おしい声で。

露伴先生。次のお休みの時、レストランを予約して。わたし、ちゃんとしたきれいな格好して、一生懸命おしゃれして行くから。そこでもう一度言って。今の言葉を。裸のままじゃなくて、ううん、嫌だったって訳じゃあないのよ。でもやっぱり。好きよ、露伴先生。大好きなの。

息を弾ませて、そう言い終えると、名前は頬を赤らめて笑った。世界で一番きれいなものを、僕は手に入れたんだ。

(100325)
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