小さい頃、一度だけデパートの屋上のプラネタリウムを見に行った事があった。今では内容どころか、それがどこで、どんな風にどんな具合に行われていたのかも覚えていない。星が一面にきらきらと広がっていたのはどうにか頭にあるけど、それはあとあと私の思い込みによって作られた思い出なのかもしれない。
星のような人だった、藤代くんは。それも、夜空一面の星。流星群、星座、月もふくめて、藤代くんは夜空だった。寮の窓からはあまり星が見えなかった。だけど、私は今まで星とか、そういうロマンチックな事に実は興味がなかったのだ。一年生の体験教室で山奥に泊まった時、全員参加の天体観測で藤代くんに話しかけられたのがきっかけかもしれない。「おれ、星とか好きだな」友達がやだ、藤代その言い方頭わるそーと笑っていたけど、私には藤代くんの星のようにきらきら光る目がとても素敵に見えた。藤代くんの目は夜空をまるごと持ってた、暗い部分も、星の集まる明るい部分も。あれが素直な人の目なんだろうな、と思った。あれ以来、私の中には、藤代くんと、藤代くんの夜空がずっといる。心を奪われたのではなく、多分藤代くんの一部をもらった。きっとこれからも、起きている時も眠っている時も、私の心には藤代くんの夜空があるのだ。それはもし、この恋―のような、恋に近いもの―が終わっても、私が夜空を見上げる限り、永遠になくなる事はない。
きっと私には藤代くんの心は奪えない、もらえない。夜空の星なんかに、このちっぽけな手は届かないのだ。そういえば、思い出した。小さい頃、一度だけ見に行ったプラネタリウムの最後は、驚くほどまぶしい朝陽だった。アナウンスのまじめな声は、おはようございます、これが明日の朝の景色です、と言った。私はたしかにあの時、またいつか、あの瞬間、私の心に一面に広がっていた夜空に出会いたいと願っていた。今日の景色は、あのプラネタリウムで見たまぶしい朝日とは違って、どこまでももやもやとした灰色の景色だった。

(2006)
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