わたしと精ちゃんのこと

精ちゃんが最近テニスクラブに入ったんだって。お母さんが言ってた。テニスっていうのはラケットでボールを打つスポーツなんだって。これは精ちゃんが言ってた。
精ちゃんとはおうちが隣同士で赤ちゃんの頃からずっと一緒。幼稚園も同じでとっても仲良し。精ちゃんは髪の毛がふわふわで女の子みたいにかわいいけど、わたしのお兄ちゃんみたいな存在。わたしが幼稚園でいじめられてたら助けに来てくれるし、一緒にシルバニアファミリーで遊んでくれる。精ちゃんは優しいから好き。だから名前は精ちゃんと結婚するの。でもシルバニアのうさぎさんのお人形の腕を取ろうとする精ちゃんは嫌い。だけどお人形さんのかわりに名前が泣いたら、精ちゃん、ごめんねって100回くらい言ってたよ。

「なあにそれ。かわいい。女の子のカチューシャみたい」
「これはヘアバンドだよ。テニスをやる時につけるんだ」
「テニス?なに?」
「ラケットでボールを打つんだ。真ん中にネットがあって、相手が向こう側にいて、ボールを打ち合うんだよ」
「花いちもんめみたいな?」
「全然違うよ。まあやってみるのが一番わかりやすいよ」
「うん!名前もカチューシャつけてテニスやるよ」
「カチューシャじゃないって、ほらおいで」

精ちゃんに手を引かれて、着いたのは大きくてきれいなおうちだった。中に入るといっぱいテーブルがあって、レストランかな?って思ってたら、ここがテニスクラブだよって精ちゃんが言った。わたしが精ちゃんの後ろできょろきょろとまわりを見回していると、「こんにちは、精市くん」と知らないお姉さんが精ちゃんに言った。
「こんにちは。今日は友達を連れてきたんだ」
「あら、そうなの!こんにちは、精市くんのガールフレンドかな?お名前は?」
お姉さんがそう言ってわたしの頭をなでた。わたしは「こんにちは、なまえは名前だよ」と返事をして、ガールフレンドの意味が分からなかったのでなあにそれって顔して精ちゃんを見た。精ちゃんが「家が隣同士なんだ。ガールフレンドじゃないよ。それは後々ね」と言うとお姉さんはキャハハと笑って、「さすが精市くん!」って言った。さすがってどういう意味だろう。がーるふれんども。今日は新しい言葉をたくさん聞くなあ。と思っていたら精ちゃんが握っていた手を引っ張った。
精ちゃんに連れられておうちを出ると大きくてきれいな緑色の地面が広がっていた。
「すごい!精ちゃん、ここすごいね!」
「これがテニスコートだよ」
精ちゃんがラケットとボールを貸してくれた。ラケットはピカピカしててきれいだったけど、ちょっと重い。精ちゃんが「こういう風にやるんだよ」と言ってラケットでボールを打った。近くの壁に当たってボールはまた跳ね返ってきて、わたしはびっくりして後ろに逃げた。
「大丈夫、ほら、やってごらん」
精ちゃんが大丈夫って言うから多分大丈夫だ。わたしはうん、と頷いて精ちゃんと同じようにやってみる。すると、ボールは地面にぽんぽんとバウンドして、わたしはラケットを持ったまま一回転してしまった。
「あ、当たらないよ、精ちゃん」
「初めてだからしょうがないよ。ほら、こういう風にやるんだよ」
精ちゃんがそう言ってもう一回ボールを打ってみせた。精ちゃんのようにやってみる。でも当たらない。精ちゃんが何度も見本を見せてくれたけど、わたしはいくらやってもラケットにボールを当てることができなかった。
「もう、テニス、やだ!!」
せっかく15分かけてテニスコートまで歩いてきたのに、何にも楽しくない!精ちゃんは練習してたら上手くなるよって言ったけど、わたしはもうテニスをしたくないと思った。
テニスなんてやめてシルバニアファミリーで遊ぼうよって精ちゃんに言ったら、精ちゃんちょっと困った顔してから、笑って「いいよ」って言った。

帰りにお姉さんが「名前ちゃん、また来てね」って言っていちご味の飴をくれたから、テニスはもうやらないけどまたついてきてあげてもいいよって精ちゃんに言った。精ちゃんは嬉しそうに笑って、「じゃあまた今度来てよ。名前に俺がテニスしてるところを見せたいから」って言った。
「てにすてにすって、そんなにテニスが好きなの?」
「うーん、名前の次くらいに好きだよ」
「ふうん」
名前は精ちゃんよりシルバニアファミリーの方が好きだけどね!

(091126)
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -