第6話 逃げる、逃げる、待つ、気付く

噂が広まるのは早い。それならば本当の話はもっと早い訳で―。
幸村くんのいずれ発言のせいで、私はあっという間に学校内に“幸村くんのまだ彼女ではないが、いずれそうなる人”という風に知れ渡った。どちらかといえば、いや細かく分類したとしても地味なグループのはずの私が、わずか数日にして廊下ですれ違う度に「あ、あの人って…!」と言われるまでになった。
「普通じゃん!」
「ていうか、可愛くないじゃん!」
もれなく心ない言葉も一緒に。この調子じゃ一週間後には一生分の涙を使い切ってしまいそうだ。まあ、どれも本当のことだから仕方ないけど。ていうか本当のことだからこそ傷つくんだけど。

当然、幸村くんファンのやっかみを受けるようになり、例の発言の次の日にはさっそくお美しい先輩方に体育館裏に呼び出されたりもした。でもそういう時にうまく切り抜ける方法を全く知らない私はノコノコと呼び出しに応じていた。
「ちょっとアンタ、幸村くんと少し仲良くなったからって調子にのらないでよ」
「い、いえ…全然…決してそんなことないです…。むしろその逆を望んでるっていうか…」
「はぁ!?」
「ヒーすいません!」
こういう時、よくある少女漫画だったなら幸村くんが助けに来てくれたりするんだろう。もし本当にそうしてくれていたら私は幸村くんを見直していたかもしれない。でも、現実は甘くない。先輩達をギャフンと言わせるような反撃技も持ってないし、そんなガッツもない私。逃げ足にだけは昔から定評がある。ここは逃げるが勝ちと全速力でピンチを切り抜けた。

昼休みが終わって、幸村くんファンの視線にビクビクしながら教室に入ると、幸村くんがいつにも増してニコニコしていた。怪しい。昼食を一緒にどうかと言われて今回は全力で振り切ったのに…。
最近、幸村くんに無理やり連行される日が多くなってきたせいでエミコたちはもはや何も言わなくなってきた。でもユリはちょっと能天気なので「一時はどうなることかと思ったけど、かっこいい彼氏ができてよかったじゃーん」とか言う。だから彼氏じゃないって!
幸村くんは私が席に着くとすぐに話しかけてきた。
「名字さん、ずいぶん挙動不審だけどどうしたの?」
「し、失礼な!誰のせいだと…!」
拳をグッと握り締めるも、フフ…と相変わらず不敵に笑う幸村くんは全く悪びれる様子を見せない。それどころかそう言った私に対してキョトンとした顔で「誰のせい?何が?どうしたの?」と聞いてきた。分かってるくせにこいつ…!
私が奥歯をギリギリと噛みしめていると幸村くんは再びさわやかな笑顔に戻ってこう言った。
「まあとにかく、俺にできることがあれば何でも言ってよ。俺は名字さんの力になりたいし」
「・・・・・・」
ここまで言われると逆に言う気がなくなる。ええい、誰がこの男になんか頼ってやるものか!
言うまでもなく授業中はまたガッツリと幸村くんの嫌がらせともとれる求愛行為を受けた。完全に私は心身ともに疲れきっていた。

そんなある日の放課後―。いつものようにファンの方々をまいた後、ゼェゼェと息を切らしながら廊下を歩いていた。すると途中で柳くんに会って、呼び止められた。どうやら柳くんは生徒会の会議があったらしく、放課後だというのにジャージを着てはいなかった。
柳くんと真田くんとは幸村くんと共にお昼を一緒する機会が増えていたので最近ではもう普通に話すような仲になっていた。柳くんは幸村くんの感情をコントロールする方法を多少は知っているので、まあ助かる。ちなみに真田くんのことはその後私が幸村くんに正直に告白し謝ったので誤解は解けた。真田くんとも今では普通に話せるようになった。真田くんは見た目によらず、意外と優しい。まあ、それは置いといて。
「一体どうしたんだ、そんなに汗かいて」
「ゆっ…ら、く…の…ファ…のっ…」
「落ち着け、そして日本語で頼む」
柳くんは制服のポケットからハンカチを取り出して私に差し出した。この人も真田くんも、幸村くんの友達の割には親切なんだよなあ。でも、幸村くんの友達だと思うと…。私は柳くんをキッと睨みつけながら、手からハンカチをひったくるようにして受け取った。どうだ!恨むならお前の友を恨むがいい!ふははは!
「まあ大方、お前が機嫌を損ねている理由は精市のことだろうと察しがつくが」
受け取ったハンカチで滴る汗を拭いていると、柳くんは表情ひとつ変えずに涼しい顔で言った。分かってるなら聞くなよ…。そう思いながらジトッとした目つきで柳くんを見ると、柳くんはゴホンとわざとらしく咳払いした。
「どうだろう。ひとつ、受け入れて付き合ってみては」
「はぁ!?」
柳くんの想定外の発言に、引いたはずの汗が再びどっと溢れてきた。
「いやいやいや…何言ってんの、柳くんまで」
「精市は確かに多少強引なところはあるが良い奴だ。世間一般でいう優しさはそれなりに持っているだろう」
「い、良い奴!?」
何それ!良い奴の定義ってものを教えていただきたい!目を見開いて大声でそう言うと柳くんは少し驚いたみたいだった。開いた口が塞がらないままわなわなする私に柳くんは続けた。
「それに、顔は文句ないだろう」
まあ確かに顔は…うん…まあ。でも付き合う相手は顔で選ぶべきじゃないと思う。大体幸村くんがあんなにモテるせいで私は毎日校内を逃げ回るはめになっているというのに。今更顔立ちが良いからといって幸村くんと付き合おうなんて思わない!
「いや…もうこの際顔とかどうでもいい…顔なんて…!私はもっと普通の人とお付き合いしたいの!もっと普通で…そう、ファンの人たちに呼び出しされ続ける毎日は嫌だし、人に注目されるなんてもってのほかだもん…。もっとひっそりと楽しい健全な交際をしたいの!」
そして私はそれを皮切りに、溜まっていた鬱憤を晴らすかのように幸村くんへの不満を柳くんにグチった。それはもう長い間、グチった。
柳くんは嫌そうな顔ひとつせず聞いてくれた。柳くんは時折静かに相槌を打っては、「ふむ」と何かを考えているように言った。そして最後に、「名字の言いたいことは大体分かった。そして、考えてることも」と真面目な顔で言った。
「そう、分かった!?私は幸村くんから解放されたいの!何も考えずに幸村くんかっこいいねキャーとか言ってられる立場に戻りたいの!とにかくもう幸村くんとはもう関わりたくない!」
私は興奮のあまりつい早口になり、一気にまくし立てたせいでいつの間にか息が上がっていた。そう、私はこんな幸村くんファンにビクつきながら、幸村くんに気を使いながら、マイペースを乱される生活から解放されたいのだ。そして何も知らずに盛り上がるミーハーになりたい。その方が数百万倍楽だし、純粋に幸村くんのことを好きになれる。
「違うな」
柳くんはふいにそう言った。
「違う?何が?」
そう聞き返すと、「お前は分かっているはずだ。いや、それとも今はまだ自覚していないのかもしれないが…」と言うとそれきり口を閉ざした。
「えっ?何、何が?」
「今日のところはここまでにしよう。部活に行かねばならない」
柳くんは私の疑問に答えてはくれず、私の頭にはてなを残したまま行ってしまった。すっきりしたような、逆にもやもやが増えたような…。幸村くんに、「放課後、部活の様子を見においでよ」と誘われていたがもちろん行く訳もなく。私は複雑な気持ちのまま学校を後にした。



「あ、あの人!」
私はまたか…と思いながらもその声がまるで聞こえなかったような振りをして彼女たちの横を通り過ぎる。
今日もこうして後ろ指さされる一日が始まった。これから教室に行って、また授業中には幸村くんに嫌がらせをされる。昼休みには幸村くんファンから逃げ回って、午後にもまた幸村くんにちょっかいを出される。部活においでとしつこく誘われて教室の隅まで追い詰められる。幸村くんの腕に噛み付いてまた全力で逃げ回る。そんな生活がかれこれ一週間は続いていた。幸村くんもよく飽きないな、なんて逆に幸村くんが心配になるくらいだ。
エミコが女の子たちを面白そうに眺めながら「ちょっとの間にすんごく有名人になっちゃったね」とひやかしてきた。
「やめてよー…」
ため息混じりにそう言って、私は片手で頭をかかえた。
「とか何とか言って、本当は自分でも段々幸村くんのこといいな…とか思い始めてるんじゃない?」
「ないないありえない!あいつのせいで私の平穏な毎日がここまで崩されてんのに!」
「平穏な毎日って…ただ学校行って家に帰るの繰り返しだったじゃない。おばあちゃんみたいな」
「・・・・・・」
実質私はおじいちゃんよりも薄っぺらな毎日を過ごしていたので、何も言い返すことができなかった。エミコはそんな私を見てニヤッと笑った。
「幸村くんと出会ってから、名前毎日楽しそうじゃん。自覚してないみたいだけど」
「なっ…!」
昨日の柳くんもそうだけど、エミコまで何言ってんの!私は頬が赤くなるのを感じて、まるで認めてるみたいで悔しいから両手で頬を隠した。
「そんなことない!ぜんっぜん、楽しくない!!」
「あはは、そんな事言って。でも実際のとこ、今更幸村くんに構ってもらえなくなっちゃったらつまんないんじゃない?」
「いいえ!全然そんなことないですけど!清々します!」
私がそう怒鳴るとエミコは「ふーん、どうだか」と高らかに笑った。



教室に入ると幸村くんは席に座って読書をしていた。いつも幸村くんに気付かれないようにこっそりと歩いてはいるが、席に着けば幸村くんはすぐに気付いて話しかけてくる。どうせ今日も「おはよう名字さん、今日も素敵だね!」とか皮肉ってくるに違いない。そんなことを思いながら席に着くと、幸村くんは珍しく後ろを向かなかった。あれ?気付いてないのかな?なんて思いながら幸村くんの読んでる本を覗き込むようにちょっと前に身を乗り出してみる。するとその瞬間、幸村くんが横を向いて前のめりの体勢の私と至近距離で目が合った。
「うわっ!お、おはよう…!」
「…おはよう」
幸村くんはしらっとした暗い声で言い、すぐに視線を手元の本に戻した。あれ…どうしたんだろう…。私は何故かちょっと焦っていた。本当なら幸村くんのこのドライな反応を喜ぶべきなのに。そういえば今日、初めて私から挨拶したっていうことを思い出した。おかしいな…、いつもだったら…。そんな風に思いながらしばらくぼんやりと立ち尽くしていたけど、そんなことをしていても幸村くんがもう一度後ろを向くことはなかった。
静かな授業は静かに、少し騒がしいはずの授業も今日は私のまわりでは最後まで静かに終わった。何故かって、それは幸村くんが一度も後ろを向いて私に話しかけてこないから。休み時間すらもそうだった。幸村くんは私に目をくれることもなく教室を出て行って、帰って来る。そして相変わらず静かに授業を受けるだけだった。昼休みも。その日は雨だったので中庭でのランチを断念してエミコとユリと三人で学食に行った。人混みの中に、幸村くんの姿を見つけた。柳くんと真田くんも一緒だった。幸村くんの横は空席になっていて、幸村くんは三人で楽しそうに話をしていた。こないだは私があそこに座っていたのに。
しばらくその様子をじっと眺めているとユリが「名前、どうしたの?」と聞いてきた。私は慌てて「ん、何でもない。今日のB定食おいしそうだなって思って」とはぐらかした。顔は笑ってたけど心は笑ってなかった。何、この感じ。わかんない。食事はあまりおいしくなくて、全然喉を通らなかった。

幸村くんが急に話しかけてこなくなった。昨日まで、あんなにしつこかった幸村くんが。何でだろう。私のこと好きにしてみせるって言った幸村くんが―。
それは放課後も同じだった。「部活、見においでよ。俺がどれだけテニスが上手いか見せてあげる」と幸村くんが自信満々に笑って言っていたのは昨日のこと。幸村くんが話しかけてくれるように、わざとゆっくり帰り支度をして、いつもみたいにすぐに逃げようとせず、教室に残っていた。それでも幸村くんは私に何も言わなかった。私の横を無言で通り過ぎてく幸村くんは、みんなの人気者の幸村くんでも、私の天敵の幸村くんでもなかった。これは何かの間違い。きっと幸村くんは体調が悪いのかもしれない。それに今日は雨だから、部活も休みで、だから誘ってくれないんだろう。そんな風に思うことにした。

それでも幸村くんファンからの呼び出しはかかった。いつもの元気がない私は幸村くんファンからの辛らつな言葉から逃げるでもなく、反抗するでもなく、ただただ聞くことだけを続けた。聞くと言っても、それは右から左へ、左から右へ流れていくだけで何一つ頭に入っていない。
「あんたみたいな子、幸村くんに相応しくないんだから!早く幸村くんから離れてよ!」
ただこの言葉だけはぼんやりとした頭にも残った。幸村くんに相応しくない。そんなこと、言われなくても初めからわかってるよ。

そこそこの時間で解放された私は廊下を歩いていた。まだ4時とか5時とかそのくらいの時間なのに、窓の外は薄暗かった。そうえば朝のニュースで梅雨入りしたと聞いたような気がするけど、よく覚えていない。
「今日は汗をかいてないようだな」
後ろから聞き覚えのある声がした。振り返ると柳くんがいた。いつもの無表情ではなくて、ちょっと微笑んでるように見えた。柳くんは今日もまた制服だったのを見て、「うん、今日はちょっとね。ところで今日は部活休みなの?」と曖昧に返事をしつつ尋ねてみた。
「今日は雨だし部室での自主練習といったところだ、今から行こうと思ってる」
「そうなんだ、えらいね」
「いや、俺だけサボる訳にはいかないからな。弦一郎も精市もきっともう始めてるはずだ」
「そう…」
テニス部は練習熱心な部員が集まってるようだ。いつもと同じで部活があるなら、どうして幸村くんは誘ってくれなかったんだろう。いや、毎日誘ってくれていた幸村くんを邪険に扱って、無視してたのは私なのに、どうして今更そんなことを思うんだろう。自分のいやしさにガッカリした。そして自分の中に、幸村くんに対しての執着が生まれていたことに気付いて、心臓がぎゅっと締め付けられるような気持ちになった。
「それじゃあ、頑張ってね。私は、帰る」
「ああ、気を付けて」
余計なことに勘付かれたくなくて、私は柳くんと話すのを早めに終わらせた。無言で私を見つめる柳くんの横を通り過ぎて、荷物を取るために教室への道を急いだ。



「うっそお………」
昇降口はすでにビチョビチョ、外はザアザアの大雨になっていた。
「傘持ってないよ〜…」
こんなことなら朝のニュースをもっとちゃんと見ておけばよかった。そして傘が必要となると言ったお天気お姉さんの忠告に従っておけばよかった。傘たてを見ても、もちろんすっからかん。こないだまでたくさんあった置き傘やら捨てられたボロボロの傘すらもなくなっていた。ちょっとの雨なら濡れてもいいが、この土砂降りの中を駅まで15分歩くのはちょっと躊躇われた。
「どうしよう…」
呟いて、薄暗い空を見上げる。眉間に皺をよせて空を睨んでみる。実は私には超能力があって、雨を瞬時に止めることができる!という妄想を脳内で繰り広げながら。もちろん私にそんな力があるはずもなく雨は相変わらず降り続いていた。
あと15分待ってみて、駄目だったらしょうがなく濡れて帰ろう。私はそう決めて下駄箱近くの段差に腰掛けた。床はどこまでもひんやりと冷たく、素足に触れた瞬間つい身震いするほどだった。

今日は良くない日だった。雨はひどいし、傘はないし、帰れないし。返却された国語の小テストは35点だったし、化学の実験ではフラスコを割った。相変わらず呼び出しはされるし、追い回されるし。―幸村くんは話しかけてくれないし。
ズキンと心が痛んだ。そこで初めて気が付いた。もしかして、私、エミコの言うとおり、幸村くんのこと…。

「こんな寒いところで何してるの?」
ふいに聞こえた声にビクッとした。慌てて辺りを見回すと、部室棟の廊下の方から幸村くんが歩いてきていた。
「女の子は体を冷やしちゃいけないとかよく言うじゃないか。まあ、名字さんは普通の女の子とは違うけど」
幸村くんはいつものように私を怒らせるようなことを言ってフフッと笑った。でも私には怒る余裕なんてなかった。
何も言えずにただ幸村くんを見上げることしかできなかった。幸村くんは私の横に立ってしゃがみこんだままの私を見下ろして笑っていた。優しいけどどこか意地悪な笑顔で。
「幸村くん、どうして?」
「どうしてって何が?俺は今から帰ろうとしてるだけだよ」
「違うよ、そうじゃないよ。どうして、急に話してくれなくなったの?」
幸村くんは微笑むのをやめて唇を一字に結んで驚いた顔をした。
もう話しかけてくれないかと思った。たった一日話しかけてもらえないだけでこんなに不安になってる自分が信じられなくて、不思議で、おかしくて。悲しかった。どこか舞い上がってる自分にバチが当たったのかもしれないって思った。人の評価なんてどうでも良かったけど、幸村くんの態度ひとつですごく響いた。やっぱり幸村くんに私は不釣合いで、相応しくないんだって。
目の奥がじわっと熱くなった。泣いてはいないけれど。泣かないけど、でも泣きたい気分だった。私の気持ちをかき乱して、その気にさせといて、無責任に放り出すのはずるいよ、幸村くん。
幸村くんはしばらく黙ったまま私を見てた。私も幸村くんを見てた。二人、同じ姿勢のまま。時間が止まっちゃうかもしれないって思うくらい、この沈黙が長く感じた。
「名字さん」
雨の音にかき消されそうな幸村くんの声。一日ぶりに聞いた私を呼ぶ声。
「俺を必要としてる?」
そんなこと、分かってるくせに。やっぱり幸村くんは意地悪だ。幸村くんは私の質問には答えず、私にそう尋ねた。空はもう暗くなっていた。外からの空気が私の指先やうなじや足を冷やして、唇を震わせる。私は何も言わずに頷いた。必要だよ、なんて言える可愛い口は持ってない。
「俺には名字さんが必要だから、名字さんに必要とされるのを待ってたよ」
幸村くんは優しい声で言った。あんなに苦手だった、あんなにうざったいと感じてた幸村くん。今はそうは思えなかった。
幸村くんが私の平凡な毎日を、劇的に変えた。まるでシンデレラみたいに。みんなの人気者で王子様の幸村くんが、私に手を差し伸べてる。その手を取ると、お互い驚くほど冷たかった指が、一瞬にしてあったかくなった。
「帰ろう、送るから」
幸村くんがそう言って、私は返事の代わりに唇をきゅっとかみ締めた。涙が一粒頬に流れた。幸村くんはそんな私を見て、目じりを下げて笑った。

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