5年分のハグを、君に01 | ナノ
走れ、走れ、私。

到着時刻を、もう10分も過ぎてしまっている。きっと彼がロビーで待っている。


「わっ!」
「すみませんっ!!」

人にぶつかっても、今はそれどころじゃなかった。
でも、ぶつかってごめんなさい。今は先に行かせてください。
「本当にすみません!」
ロビーへと向かう通路で、彼と同じくらい年齢の人を見た。隣には女の子。
(きっと、彼女なのかな。)
早く、早く、行かなくちゃ。
5年ぶりだもの。最愛の彼が、やっと、日本に帰ってきたんだもの。


「つ、着いたぁ…。」
到着時刻から、15分過ぎ。ようやくロビーについた。周りを見ても。彼らしき人物は見当たらない。

あ、いた。あの目の覚めるほど鮮やかな…。

「羊君っ!」

ゆっくりとこちらを振り返る、赤い髪と赤い瞳の彼。

「やっと、会えたぁ。」
「月子、ただいま。」

ちょっと背が伸びていて、顔つきはもう男の人。あんなに急いで来たのに、本人を目の前にすると、どうしても足が竦んでしまう。


彼が、微笑んで両手を広げてくれた。


ここが、ロビーで、人が沢山いて、なんて、もうどうでも良かった。
その腕の中に飛び込んだ。きっと普段ならこんなこと出来ない。でも、今日くらいは良いよね。

「羊くん、おかえりなさい。」
「うん。ただいま、月子。」

5年分のハグを君に

「月子遅いよ。いないのかと思った。」
「ごめんね。」
「…良いよ、走ってきてくれたからね。」