僕の愛した分だけ09 | ナノ
例えば、僕が貴方を愛しているとして。
それは僕の気持ちの問題で、それと同等のものを彼女に求めることは傲慢だし、可笑しな話だ。彼女と僕が付き合っているからと言って、彼女の時間・行動・言動を束縛したいわけじゃないし、そのようなことが許されるとは、思ってもいない。


それなのに、彼女の名を誰かが呼ぶとき、
彼女がその相手に笑いかけるとき、
恥ずかしそうに頬を染めるとき、
僕の心臓は、痛み、苦しくてたまらなくなる。

そう、この感情は、嫉妬。
彼女を一人占めしたくて、全てを手に入れたくて、どうしようもなく我儘で醜いこの感情。それを一生懸命隠して、彼女の隣にいる。

今だって、こんなにも貴方に焦がれ、衝動に突き動かされそうなのを、我慢しているというのに。貴方は何も知らずに、無邪気に笑う。


「…あまり、貴方の口から他の人の話を聞きたくないです。」

口から出たのは、幼稚なやきもち。
しまった、と思った時には、もう遅かった。彼女はそんな僕を見て、一瞬驚いて、笑った。

「そうだね、ごめんなさい。せっかく颯斗君といるんだもの、気をつけるね。」
「いえ、あの…。すみません。」
「どうして?私は颯斗君が、ヤキモチ妬いてくれて嬉しい。それを口にしてくれて、もっと嬉しい。」
「そんなのはっ、…僕の我儘です。」
「…颯斗君、もっと私に我儘言っていいんだよ。同じ気持ちを求めたって、嫌だっていたって、颯斗君のそれは、私には全然我儘じゃないよ。」

"愛は見返りを求めないものだ"と誰かは言っていた。それでも目の前の彼女は、求めても良いと言う。

「私も我儘言うかもしれない。それは、お互い様だよ。それに、私は颯斗君のしてほしい事を、してあげたい。」

…じゃあ、僕は



「…今日は、手を繋いで、帰りませんか?」
「ふふ、うん。喜んで。」