お姫様になりたい(颯月) | ナノ
“ピアノ界に、王子様現る!!”
そんな見出しから始まる音楽雑誌の見開きページのそこには、先日の彼のリサイタルの写真が載っていた。日本で行われたリサイタルは、大成功をおさめ、こうして様々な雑誌で取り上げられた。今までは、専門的な雑誌が多く、一般の人(例えば、私のような)が手に取るようなものでなかった。それが今回、音楽雑誌でも、割と一般向けのものに取り上げられたのだ。


「…王子様、かぁ。」
本屋に行ったときに思わず買ってしまった、その雑誌。彼が注目され、認められることは私にとっても嬉しい。けれど、どこか、もやもやする。写真の彼は、まさに王子様のように見栄えがいい。贔屓目かもしれないが、本当に格好いい。


「月子さん、何を見ているんですか?」
「あ、颯斗君。…これ。」
「…あぁ、この前のリサイタルのものですね。」


…そう、目の前にいる人は王子様だ。何とも言えない、この気持ち。色々な気持ちが交錯してくる。王子様に恋する一般庶民の私は、不安が絶えない。


「その雑誌の僕を見つめてくれるの嬉しいのですが、僕としては、こっちの僕にも構ってほしいものですね。」
「え?」
私から雑誌を取り上げてしまった。彼と目を合わせれば、満足そうに微笑んでキスをされた。

「は、颯斗君!?」


「…僕は王子様みたいに、優しくはないですよ。」
気がつけば、彼が私を見下ろしていた。その顔は、本当に眩しい位の笑顔。

「でも、貴方のことはお姫様のように、大切にします。」

そんなことを言ってくれるから、