いくつ夜を越えても(錫月) | ナノ
「      」

そう言われて、押し倒された。反論する前に、唇を奪われた。酸素も奪われた。苦しくて息ができなくて、彼の胸を叩いても止めてくれなかった。
(あぁ、このまま何もかも奪われちゃうのかな。)
それでも、良いか。なんて思った時、頬に水滴が落ちた。


「…んで。」


彼を見ると、頬に落ちたのは汗じゃなくて、彼の涙だった。
(どうして)
「…どうして、錫也が泣くの?」
「…っ」
そっと、彼の頬を指で撫でた。生温かい涙が私の指を伝う。その手に彼が手を重ねた。
「…何で、月子を閉じ込めておけないんだろう。」
彼の瞳は、まるで子供のように純粋さが伺えた。縋る様な瞳だった。


「閉じ込めなく、たって、私は錫也のものだよ。」
「駄目なんだよ、月子がそう思ってくれてても。」

「もう嫌なんだ。他の男が、例え先生、先輩、友人でも。月子に触れるのが、口をきくことさえ。」
「…錫、」
「わかってる!行き過ぎた考えだっていうのも、それでも苦しいんだ…。」


「月子を、俺だけのものにするには、どうしたらいいんだろう…。俺は、お前さえいれば…。」
切なげな瞳を揺らし、私に口づけた。

どれだけ体を重ねても、きっと彼の不安は続く。私の気持ちは、きっと彼に全て伝わっていない。(だから、不安になるの?)

悲しみからか、切なさからか、それとも行為のせいか、私の頬にも涙が流れた。