恋慕う明日:09 | ナノ
そのすらりと長い指が、私の輪郭をなぞる。まるで、ここにいる事を確かめるように、ゆっくりと。

「はやと、くん。」

口から零れたのは、自分が思ったよりも甘ったるい声音。それを聞いた彼は、嬉しそうに微笑んだ。頬をなぞって居た指が、そっと私の唇に触れる。

「月子さん、もう一度。」

促す様に、唇の端から端をゆっくりなぞる。ただそれだけのことなのに、背筋がふるえる。

「はやとく、ん。」

「…はい、月子さん。」

返事をした彼の瞳は、今にも泣いてしまいそうだった。それが悲しくて、愛しくて、何度も何度も、彼の名前を呼んだ。息をするのが苦しい。呼吸の仕方なんて、とうに忘れてしまった。

どちらからともなく、唇を重ねた。


「これが、幸せなんでしょうか。」
「うん。これも幸せなんだよ。」


幸せが苦しいのは、それを切に願うから。続かないかもしれない不安と、それでも求めてやまない気持ちが、胸の奥で騒ぐから。


貴方がいる明日を、願うから。

どうか、明日目が覚めたときに、一番初めに見るのが
貴方でありますように。