コンプレックスを;utpr | ナノ
全部この夜のせいにして。
君を託って、何度も何度もその赤い唇に口づけた。何もかも奪い取ってしまうかのように君を暴いているのに、何もかも彼女に与えてしまいたいと、支離滅裂な事を思う。


「…レン、さん。」

まるで呟くように俺の名前を呼ぶのに、その声はしっかりと耳に届く。この瞬間の彼女が発する全てを逃したくなかった。彼女が与えてくれる全てが、欲しくて欲しくて仕方なかった。まるで幼い子供のように。

(これじゃ、まるで初めて肌を合わせるみたいだ。)
もう何度も彼女に触れているのに。


白くか細い首筋から延びる、その先を暴いて、やっと触れた気がした。
きっと欲しかったのは、この体温。

「…春歌、好きだ。あいしてる。」

月並みな台詞なのに、今この感情を伝えるにはそれしかなくて。それでも彼女は、その綺麗な瞳を細めて涙に濡らしながら、微笑んだ。

「私、どんなレンさんも好きです。貴方が与えてくれるもの、全て受け止めたいんです。」

そう言って、白く細い手を伸ばし俺に抱きついた。
(…ずっと、これが欲しかった。)

与えて与えられて、受け入れて受け入れられて、自分が欲しているのと同じように、自分を欲してもらえる。

「…ハニー、ありがとう。」

そしてまた、惜しみなく与えられる愛に手を伸ばした。