星屑のライラック07 | ナノ
熱に浮かされた頭では、もう何も考えられなかった。
ただうわ言のように彼の名前を呼んでは、全てを享受した。全てを彼に捧げた。何度も何度も口づけて、何度も何度も触れあって。もう自分の身体は、意識から遠く離れてしまっていた。もう理性とは無縁のところにあった。

ふと彼が私の手を取って、私の指を彼の口元まで持っていった。思えば彼の唇に指で触れたことなんて無かった。彼の息が指にかかる度、身体が震えた。そんな私を見て彼は瞳で笑って、ちゅっと指に口付けた。柔らかな感触に、指先に熱を感じる。


「す、ずや…。」
「ねぇ、月子。ここにキスして?」


涙で視界が滲むのに、錫也の切なげな瞳だけはハッキリ見えた。
初めて彼が触れた時、“まるで測ったみたいにピッタリ”と言っていたのを頭の片隅に思いだす。確かに錫也の全てが私にピッタリと当て嵌まっている。彼の与える言葉、行動、温度、全てに敏感に反応した。

逃したくなかった。ただ貪欲に、彼の与える全てが欲しかったのだ。


もうほぼ無意識の中、彼の頬に手を伸ばし、そっと唇を重ねた。
これが初めてではないのに、恥ずかしかったし苦しかった。


「…もっと。」

彼の手が私の後頭部に回される。再び重なった口付けになす術はなかった。息が苦しくなるのに比例して、身体のどこかが苦しく疼いた。

「月子、あいしてる。」

そう言った彼に、私もだよ、と答えられただろうか。
分からないまま、奥深く沈んでいった。