そして今日を:utpr | ナノ
彼の好きは、平等に分けられる。
全ての女性に分け隔てることなく、順番に、均等に。

…ううん。均等、ではないかもしれない。現に私は、彼の周りにいる女の子たちのように扱ってはもらえないし、時間も割いてもらえない。優しい言葉すら、もうかけてはくれなくなった。

「あ、あの神宮寺さん。今日の、」
「…あぁ、悪いね。先約があるんだ。」
「そ、うですか。」
「別に一緒にやらなくても良いだろう?レコーディングでもないし。」
「…。」
「それじゃ。」

最近は練習すら一緒にしてくれない。
私が曲を渡して、彼が持ち帰る。次会う時に要望が出され、私が持ち帰って直す。彼が言うように、今のところ曲作りに支障はない。これが良い歌になるかは、別として。

私は彼のために曲を作った。歌って欲しくて曲を作った。
…本当に歌ってくれている?私の歌は彼に届いているの?

手元には、彼から返却された楽譜。書き込みは彼の口頭を、私が書いた。
…これは、私にとって、彼にとって良い歌?

「駄目。弱気になっちゃ、だめ。」

今日も一人、ピアノを弾く。彼の声を想像して、直す。
ポーンと一音教室に響いて、霧散した。…消えてなくなった。
その代わりに、私の目から涙がポロっと落ちた。じわじわ広がって、しまいには声を出して泣いた。


もうすぐ日が暮れる。
あぁ、彼の"好き"が少しでも、私に、私の曲に与えてもらえたら。たった一言、認めてくれたら、もっと…。

「もっと…がんばる、からっ。」

やっぱり、今日も彼は来てくれなかった。