今世界を、12 | ナノ
透明というより無色な、味気ない僕の世界に、色を付けたのは紛れもなく先輩だ。

“梓君”
そう呼ぶ先輩の髪は、淡い栗色。肌は綺麗な白、紡ぐ唇は仄かな赤。
笑うと隠れる瞳は、茶色がかった黒。

それらの色は、今まで僕の知っていた、どの色よりも鮮やかに浸透していった。大好きな色も、混ぜてしまえば濁ってしまう。だから興味も関心も無かったのに、個々に鮮やかに僕の前で彩られる。

“世界は、もっと素敵だよ。”
バラバラだった色を変化させたのも先輩だった。
赤とレモンイエローを混ぜたら、バーミリオン。青と緑を混ぜたら、ビリシアン。そうやって増やしていった色で、僕の世界はどんどん鮮やかに染まっていった。貴方がいたから、僕の世界は広がった。今までどれだけちっぽけな世界で、全て知ったつもりでいたかを、知った。


何百の色よりも、何万人もの人が言ったどんな言葉よりも

「梓君、好きだよ」

先輩の言葉が、僕の世界に寸分の狂いもなく、ピッタリと。
だから僕は、先輩がいい。


「先輩、もっと言って。」
「す、好きだよ。」
「もっと。」

その白く頼りない細い腕を引いて、腕の中に閉じ込める。

「好き。」

今僕の瞳に映っているのは、この世界の美しさ。

「先輩、愛してます。」