紫陽花の視線たどって01 | ナノ
泣いている。
今、僕の目の前で、僕の大切な彼女が、大粒の涙を流している。睫につく大粒の涙が、光っていてきれいだな、なんて僕はそれを一歩引いた所で見ていた。その綺麗な涙が、誰の為のものか、なんて分かり切った事を思っていた。

月子の視線は、いつも彼を追いかけていた。
その愛に満ちた“恋する瞳”は僕を写すことはなく、いつも彼ばかりを写していた。僕がいつも月子を見ている様に、月子の視線をたどれば、いつも彼がいた。
この恋は叶わないんだな、と感じていた。


「…月、子。」
「ご、ごめんね。なんかこんなに、泣いちゃって…。」
「いいよ、無理しないで。」
「羊、くん。」


今日、彼女の恋が終わった。
彼女を振るなんて、僕には信じられないけれど、彼女はの想いが通じる事はなかった。

「こ、んなとこ、羊君に見られるなんて、恥ずかしい、な。」

無理に泣き止もうとする彼女の表情が、あまりにも痛々しくて思わず手を伸ばした。抱きしめた彼女は、小さくて、震えていて、見てられなかった。

「…今日は泣いていいよ。泣き顔は僕が隠してあげるから。」
「よう、くん。」
「この間だけ、…彼の代わりにして良いよ。」

ぐしゃぐしゃの顔をあげて、僕を見た彼女の瞳に写っていたのは、たぶん僕じゃない。

教室の外では、少し枯れ始めた紫陽花が雨にぬれて、まるで泣いているようだった。
雨の音と彼女の嗚咽が重なって聞こえた。

“僕にしておきなよ”なんて、言えなかった。