ルフィに誘われて麦わらの一味として海賊をしてきてもう暫く経つけれど、出会って早々涙を流されたのは初めての経験だった。




「うぐ、ひぐっ……なんて、神々しい姿だっぺ……可愛すぎておらぁ……もう……」
「え、ええと、大丈夫ですか……?」





膝から崩れ落ちるように倒れた彼にそっと声をかける。緑色の髪に派手な化粧をしている非常に強面な男性はついさっき、私の顔を見るなりずっとこの調子だ。知らない間に何かしてしまったのだろうか、と不安に思っているとロビンが彼の名前であるバルトロメオ、と私たちのファンらしい事を説明してくれる。海賊のファン?と思わず首を傾げたが実際彼は私や、やってきたロビンにも卒倒していたのできっと本当なんだと思う。





「ロ、ロビン先輩にサナ先輩のセット……おれぁ……夢を見ているんだっぺ……美しくてセクシーなロビン先輩に愛らしさが溢れるサナ先輩…………贅沢すぎるべ……」
「ね?」
「う、うん……本当にファンなんだ……ええと、その、はじめまして。知ってるんだろうけどアトラス・サナです。船では……」
「せ、セラピストだべ!?勿論知ってます……常識だべ……サナ先輩のマッサージにはどんな奴も骨抜き……癒しの世界にダイビング……訪れた先で先輩の手に惚れ込む輩は数知れず……!それから守る麦わらの一味……ッ!!!」





あぁ……と息を吐き出して改めて倒れこむ彼にはどう声をかければいいか分からない。ただ彼の語る私は本物のわたしよりも明らかに強そうであるし、どう考えても誇張表現がされ過ぎている。確かに訪れた場所で歓迎されてしまうとそのお礼も兼ねてマッサージを行うことがあった。とはいえ長く行ってる訳でもないし、ましては骨抜きなんてあり得ないと思った。





「確かにサナのマッサージはいつも好評ね」
「そ、そうかな……でもそんな骨抜きなんて」
「あら、私は案外間違ってないと思うけど」




ふ、と笑うロビンはそのままトラ男くんとかね、と言葉を続ける。ローくんは確かに私のマッサージをよく褒めてはくれるが骨抜きなわけじゃないと思うからそうかな?と少し濁すと彼女はええ、最たる例かしら。と楽しそうにしていた。本当かなぁと思いつつ施術中の彼を思い出しているとバルトロメオさん、もといロメオさんはまたがっくりと膝をついて震え始めた。




「トラファルガー・ロー……!ルフィ先輩たちと同盟……!なんて羨ましい立場なんだべ……!」
「彼、サナを気に入っているのよ」
「な、ななな……ゆ、許せない……!野郎、サナ先輩に何かしたら俺が黙ってないっぺ……!どうせサナ先輩の愛らしさと少し天然さんなところに黙っていられないんだべ!サナ先輩!ロビン先輩!任せてくんろ、俺がお二人をお守りします!」
「頼もしいわ、ありがとうトサカくん」
「え!?あ、ええと……ロメオ、さん?ありがとうございます……?」




ロビンと共に守ってくれると宣言する彼に感謝を述べるとロメオさんはまた感激の涙を流して地面へと倒れこむ。暫くそうした後泣き腫らした目で彼は立ち上がり、もう大丈夫だべ!お二人のお供致します!とキリリとした表情になる彼に助かります、と頭を下げると彼はそっと一枚の紙を差し出して「あ、あと……もし良かったらサイン……頂けませんか……?」と恐る恐る尋ねて来たので、書いたことないけどそれで良いならと了承すれば、彼はまた、ばたりと後ろ向きに倒れてしまった。


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