潜入服




「ここは"ワノ国"将軍の名前は黒炭オロチ!……それに従う役人達はもれなくカイドウの息がかかっておる!」

「お国の役人達は故に横暴だが……手を出せば事件はカイドウの耳に届く!!」

「同心が揃い戦いの準備が整うまでは我々の存在がバレてはならん……!」





ワノ国についてから一夜明けて俺たちは錦えもんにこの国の現状や注意すべき事を教わった。前に言っていたとおりワノ国は完全にカイドウの支配下にあるようで下手な動きはできない。まずは敵情視察、そして町に散らばる俺たちと手を取り合いオロチを打ち倒す仲間を探すことが先決みたいだ。こういった潜入調査は自分にもそれなりに向いている気がするし、下準備の段階ってのは重要だ。

錦えもんは俺たちに国の住人になりすまして静かに過ごすようにと頼んだが……正直ルフィやサンジが帰ってきたらどうしようもないことになり兼ねない気がするのでそれまでに俺達がどれだけ有益な情報を集められるかにかかっている筈だ。隣に座るロビンとフランキー、そしてサナに目を向けると皆同じ顔でうなずいていた。どうやら思うところは同じのようだ。柱に体を預けて立つトラ男も少し苦い顔をしていたから恐らくルフィのことを思い出しているとみた。





「決戦は年に一度に行われるカイドウを崇める火祭りの夜……!そこを一気に叩くのが目的でござる」
「大体は分かった、が……おめェのいう同心とやらをどうやって見つければいい?」
「案ずるでない!これを見てくれ……!」





そう言って錦えもんは一枚の紙を取り出した。妙なシンボルのようなものが描かれたそれを錦えもんは"判じ絵"と呼んだ。どうやらこの絵には決戦の日時、集合の場所が示されているようでワノ国に住むものなら理解ができるらしい。





「そして反逆の意思を示す"逆三日月"!我々の同心は足首にこの逆三日月を携えておる……!お主らにはこれを持つものに判じ絵を渡して頂きたい……!」
「な、なるほど……その為にもこの国に馴染めってことか」
「そういうことでござる。……して、その格好であるとこの国では異分子!拙者が皆の分の着物を集めてくるまで、今日はこの術による衣を着ていてもらいたい……!」






錦えもんの言葉にそういえばこいつは能力者だったな、と思い出す。頭に何かを乗せて念じれば自分の想像した服を作り出し、相手に着せることができる能力だ。強さには直結しないがこういう時は助かるな、と感心する俺の隣でフランキーはそうだなぁ、と顎に手を当てて考えている





「俺の能力が活かせるとしたら大工だろうな、オウ!錦えもん!俺ァ、大工っぽいので頼むぜ」
「じゃあ俺は商売人とかどうだ!そういう時の方便には自信がある!」
「なんでもいいが……まァ、侍っぽいので頼む」
「……俺も別に目立たねぇならいい」
「承知した!"ドロン"!」





錦えもんの声に合わせて体の周りに煙が渦巻き、トラ男を含めた男の俺たちがまず能力で着替えさせられた。特に指定をしなかった2人以外の俺とフランキーはまさにこの国らしい着物や小物で着飾られている。フランキーは額の鉢巻と羽織が職人っぽさを醸し出している。俺は商人らしく目を惹くような縦縞のズボン、頭にはバンダナと関わりやすい雰囲気だ。おお!と感動する俺たちとは違い、髷以外は普段とあまり変わらないゾロやトラ男は特に反応もない。なんだよ、つまんねぇ奴らだなおい!





「うむ!よく似合っているでござる!……してロビン殿はどうなさるか?」
「……そうね、皆じゃ得られない情報を得られる場所に潜入できればいいのだけれども」




ロビンが少し思案するようにそう呟く。確かに彼女はそういうことには向いていそうなので同意するように俺も頷く。極論、男と女では得られる情報や寄ってくる人間も違うだろうからそういう部分を生かせるかもしれない。





「ならば芸者はどうだ?オロチは街でも人気のある芸者を座敷に呼んで宴をすることが多いが……」
「ゲイシャ……!あの綺麗な着物を着ている人かな、ロビンにぴったりだよ!」
「オロチの元に潜入するなら私の立場を生かせる芸者はいいかもしれないわね……それでお願いできるかしら」
「あい分かった!ロビン殿の美しさに負けない豪華な着物を……"ドロン"!」





俺たちと同じように包まれた煙が晴れると綺麗にまとめられた黒髪に似合う豪華な漆黒の着物を纏ったロビンが立っている。誰が見ても美しさを感じるその姿に「やるなぁ錦えもん!」と思わず囃せばかたじけない、と緩んだ顔で頭を下げた。フランキーやサナも口々に似合っている、と伝え、ロビンは楽しそうに笑って感謝を述べた。




「ありがとう。……最後はサナね、貴方は何がいいかしら」
「えーと……そうだなぁ私にできることって言えば……」
「まぁ、セラピーよなぁ」
「ふむ、せらぴぃ、とはどういうものでござるか?」




錦えもんの問いかけに揃って首を傾げた俺たちはサナにマッサージをされている時のことを思い出す。サナは誰かを癒すことに関しては滅多なときじゃないと右に出る者は居ないはずだ。




「疲れが取れてリラックスできるわ」
「そうだなぁ、こう、触られると気持ちよくなるし……」
「背中を流されるのも悪くねぇ」
「……よく眠れる」
「な、なんだか照れるなぁ……ありがとう皆、ローくんも……」
「おうおう錦えもん、こういうのが当てはまるサナにぴったりなスーパーな仕事はねぇのか?」




錦えもんは暫く考えた後、一度サナを見やると手を合わせてドロン!と掛け声を叫んだ。彼女の周りにも同じように煙が漂い、そして徐々に消え…………って、





「な、なんじゃこりゃあ!?」
「なッ……」
「あら」
「……!!!」
「うぇ、」





各々が反応する中、サナは自分の姿を見下ろして驚き目を丸くする。……それもそのはず、ロビンの着ている着物とか似ても似つかない丈の長さは何もしなくてもその中が見えてしまいそうだし、何よりも帯でかろうじて止められてはいるものの、肩から胸元までガッツリと開いたそのデザインは腕を少し閉じてしまうだけで全てが曝け出されてもおかしくない……セクシー……と言ってもいいのかすら困るほどに!色っぽいものだった。数秒事態が飲み込めていなかった彼女は唖然としていたが次第に顔を赤くし、小さく悲鳴をあげて自分の体を庇うように腕を回した。そりゃあそうだ。




「おいてめェ何を考えてやがる……!」
「錦えもん!お前コイツに何をさせる気だ!!!」




黙って見過ごせない、と言わんばかりに揃って錦えもんに刀を向けたのはトラ男とゾロだ。どちらも顔には青筋が浮かんでおり、相当ご立腹であることは間違いない。トラ男はまぁそりゃあ好きな女がこんな格好させられて、加えてこのまま仕事をさせるって言うんだから怒るのは当たり前だな、と頷いたが、ゾロまでこんなに怒るとは少し意外だ……って思ったけど、トラ男が来るまでは案外コイツがサナの世話を焼いてたな、と思い返すと納得がいく。特に2年前はよく抜けている彼女に頭を抱えていたっけな、なんてぼんやりと懐かしんでいると錦えもんがアワアワと腕を振って弁解を始める。




「そ、そなた達から得た情報で考えた結果でござる……!体に触れて気持ちよくなって癒される、そして眠れる……!花魁以外の他でもないでござろう!」
「お前の思考回路どうなってんだ!?お前も船で受けてた、あのマッサージもセラピーの一環だぞ!」




デレデレと顔を緩めて鼻血を垂らす、もはや確信犯の錦えもんに突っ込むと、ハッとした顔でなるほど!あれが……!と妙に合点がいったように手を打った。いや分かれよ!と思わずもう一度ツッコミを入れる俺に続くように舌打ちをしたトラ男は錦えもんからサナが見えないように彼女の前に背中を向けて立ちはだかった。




……が、幸か不幸か、サナは壁になってくれた彼に安心したのか、トラ男の着物を軽く掴み、そのまま近づいてぎゅ、と身を寄せたのだ。ひょこり、と横から出した顔の表情は様子を伺っているように見える。

そして、おそらく、背中に当たるその感覚に驚いたであろうトラ男がビク!と肩を揺らしてから勢いよく顔だけで振り向くが、それはそれで今のサナの格好が、見えて"しまう"トラ男は更にもう一度勢いよく顔を元の方向へと戻した。サンジがいたら嘆き苦しんでたな……と思いつつ、眉を下げて困り果てたように気まずく目を逸らす彼のその表情をつい、見つめる俺たちに気付いたトラ男が「…………なんだよ」と苦々しく言うのに「なんでもないです」と揃って返した。皆思うことは同じようでニヤニヤ、と口元が緩んでいる。




「おい錦えもん、アイツの服変えれねぇのか」
「か、可能でござるが……一度脱いでその服を消さねば……」
「……だってよトラ男、お前が脱がすか?それともずっとそのままでいるか?」
「……ッ!?何馬鹿なことを言ってんだ……!別の部屋で!一人で!脱げばいいだろ!!!」




ゾロのからかい交じりの言葉に反論の声を上げたトラ男に含み笑いをする俺たちを見ると分かりやすく苛立った彼はニコ屋!とロビンを呼ぶ。ロビンも分かっていたようで、能力でサナを剥がして自分の元に寄せて軽く後ろから抱きしめた。今のロビンの服装は袖あたりの布が大きく長いため、サナの露出部分が隠れ、上手く見えないようになっていた。トラ男は一度だけサナを見ると先程よりも盛大に舌打ちをしてから部屋を出て行ってしまった。それにきょとん、とした様子のサナに向こうで一度脱いでからもう一度服を着ましょう、と促したロビンは自然に彼女を連れ出して出て行った。残された俺たちはつい面白くなりつつも揃って錦えもんに次はちゃんとしろよ、と圧力をかけ、二人が戻ってくるのを待った。俺たちだってサナが危険なことに巻き込まれるような可能性については反対なのだ。……でも、さっきのアイツはなかなか傑作だったな、とそう思う気持ちもきっと全員同じだった。


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