墓場で拾ったこの若造は随分と変わった奴だった。

カウンターに置いた白米と味噌汁をろくに噛みもせず流し込むように食べる様はまるで餌に飢えた動物のようで、しかしその割には目玉をあちらこちら転がしそわそわと落ち着かない。その光景から何かを恐れ警戒していると垣間見るが、せめて飯くらい穏やかに食えないのかと問えば急にきょとんとして「なにが」なんて返ってくる。おかしいという自覚は無く、ただ生きる為に無意識のうちに身に付いた癖だと知った時は何とも驚愕した。

一体どこで何をしてきたら、こんなにも肋骨が浮き出るような痩せ方をするのだろうか。若いくせに覇気も無く、ボロ雑巾のようにくたびれて今にも朽ちそうなその姿は年寄りからしてみればあまりにも痛々しい。

「教えとくれよ」
「なにを」
「味の感想」
「……うまい」
「そうじゃなくてさ、」

この味噌汁のだしは何から取ったか当ててみな、そう意地悪く問題を出せば少し考えているようだったがすぐに「知らねェ」と予想通りの言葉を吐いた。鰹節だよ、なんて言ったって聞く耳も持たずに無言のままであっという間に完食してしまう。この男にとって食事とは腹の虫を抑える為に仕方なく入れておくといった行為に過ぎないらしい。ああ、全く。人間として生まれてきたというのに勿体ないと溜め息が出る。

例えどんなに酷な境遇に身を置いたとしても、

「飯は味わって食うもんだ」

そう言って二杯目の味噌汁を渡せば、何か思ったのかじっと椀を見つめた後にゆっくりと口元へもっていき啜った。









「ババア、飯おかわり」

当たり前のように茶碗を差し出してきた若造に腹が立ちわざとらしく煙草の煙をその生意気な顔に吹き付ける。不意を突かれてぎゃあぎゃあと喧(やかま)しく騒ぐ餓鬼の前に素早く盛った白米を出す。

「洗いもんが片付かないからさっさと食っちまいな」

人の言葉をまるで無視するかのようにたらたらと小豆の缶詰を白米の上にのせて口に運ぶ。ああうまいと綻ぶ顔はつい数年前まで飯を流し込むように食べていた男とは到底思えない程、呑気で隙だらけだった。

「間抜けな顔だよ」

ぱっぱと食えないのかい、そう急かせばこの若造は「飯は味わって食うもんだよババァ」なんて当然のように答えた。




銀髪侍の飯事情

2012年2月26日

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