「なんて顔してんの」

縁側に座りながら茶を啜る侍にそう問われ、洗濯物を干す手が止まる。

「何の事ですか」
「腹痛そうな顔してる」


ああ、
この人のこういう所が嫌い。

気の抜けた風貌のくせに察知能力がずば抜けて長けているから隙も見せられない。腹痛ではないが確かに最近、小さな事まであれこれ悩み出すようになり毎日が不便で物事もスムーズに行かない。気持ちが酷く不安定なのだ。気を許せばどうにかなってしまいそうで苦しい。悟られるのは嫌だと唇を噛んで平然を取り繕う。ごちゃごちゃと考えているうちに洗濯カゴの中身を干し終え、彼と同じ空間に居る必要も無くなった。居た堪れなくなり足早に家の中へと入ろうとすれば彼に手を捕らえられてしまう。

「な、に」

離して、と言う前に彼の胸に引き寄せられ逃げ場を作らないよう背中に両手が回される。隙間も無い程ぴたりと抱き締められ、微かに甘い匂いをさせている着流しにどきりと胸が震える。

「嫌、銀さ」
「あったけェな」

回された腕の力が更にこもれば嫌になる程胸の鼓動が早くなっていくのが分かる。普段はこんなに優しくなんてしてくれないくせに何故、どうして今なのだろうか。この大きな胸の暖かさにどうしようもなく安堵してしまうのを堪えて目を瞑る。込み上げる息を聞き逃さなかった彼はまるで小さな子供をあやすように髪を撫で続け、

「泣いてみ」と呟いた。

は、と息を飲んだ。まるでその言葉が合図だったかのように今まで流すまいとずっとずっと溜め込んだ涙がひとつ、またひとつと頬を伝う。次第に溢れ出る涙を必死に止めようと手のひらで拭うが手首を捕まれ静止される。

「泣いとけ」

観念し、彼の言われるがままに気が済むまで流した。どうせまた笑顔で何もかも取り繕うのだから今のうちに、なんて事を言われてしまう。この人の前で何を言おうが何を思おうが結局見透かされてしまうのなら潔く諦めてしまった方がいい。

「ずるい男」

彼にもたれたままで悪態吐けば珍しく反論せず、むしろ「腹痛くなくなった?」と冗談交りに笑ったのだった。



傍で泣いてよ

2012年2月12日

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