[欺す]だま・す
他の事に気を紛れせておとなしくさせる。なだめすかす。




「唾液の、交換」

先程から銀髪の侍に布団に組み敷かれ、聞き慣れない卑猥な水音が妙の自室で響いている。噛み付くようなその口付けに耐えきれず、早く早く酸素が欲しい、深く深く吸い込み吐き出したいと震える意識の中で咄嗟に出てきた言葉だった。

「…え?」
「だからこれ、唾液の、交換だわ」

テレビ番組でそう言っていたと告げれば、ちょ、ムードが台無しになるからやめてくんない、と先程までギラギラしていた男の目はみるみる死んだ魚のような目に戻っていった。手首の拘束が解けて安堵し、はあはあと荒い息を整え起き上がる。

「そんな顔しないで」
「するだろう」

肩を落としてふて腐れる大の男を見る。俺めっちゃ恥ずかしいじゃん、どうしてくれんのと文句を垂れる姿はまるで大きな子供のようだ。半年前に銀時とようやく恋仲になれたというのに、未だに身体を許さないせいで彼は相当我慢しているのだろう、いつもとは違う先程の激しい口付けを思えばなんて酷な事を、その場しのぎに適当に欺(だま)し、求める手を遮断してしまった事の罪悪感が妙の中で芽生える、けれど。

「…怖くて」

思わずぽつりと出てしまった言葉にしまった、と手で口を覆う。銀時は目を丸くした後でもうしないから、と小さく笑えば大きく無骨な手で妙の頬や髪を撫でそのまま優しく抱き締めた。

妙は大きな胸に頬を押し当てる。とくとくと心地よい鼓動が聞こえて深く安心する。名前を呼ぶ低音が妙の耳や骨に響く程にぴたりと寄り添えば自然と力が抜ける。この感覚がどうしようもなく好きなのだ。

ああ、あと少し、このまま。

やんわりと肩を捕まれて「あ」と声をあげた時にはもう、仰向けに押し倒され目には強気な銀時の姿が飛び込んできた。

「…騙したわね」
「…欺したのはお前だ」

怖いかと耳元で囁かれて妙は身を捩る。それよりも身体が離れて寂しいと銀時の首にそろそろと腕を回せば彼は優しく笑って彼女の頬に唇を落とした。



騙して欺して

2012年2月9日

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