失敗したってレベルじゃねーぞ
「荒北ーおはよー!」
「ッ!?何だなまえちゃんか…おはよー」
学校に向かう途中、背中を丸めて歩く荒北を見つけ、なまえは後ろからガシッと肩を掴んで荒北を驚かせる。
「何だとは何だ」
「別にー?なまえちゃん暖かそうだネ」
「マフラーと手袋は冬の必需品だよ」
「どっちか貸して」
「え、嫌だ」
「ケチか」
「荒北に言われたくない」
「アァ?」
「やだ怖い、何このヤンキー…だって荒北ノート見せてくんないじゃーん」
「お前がしつけぇから結局は見せてんだろうが」
「まぁね、じゃあその日頃のお礼をかねて、マフラー貸したげるよ。手袋は入らないと思うし」
なまえはぐるぐる巻きにしていたマフラーを首からはずして、今度は荒北にぐるぐると巻き付けた
「…暖かい」
「私の温もりが残ってるだろうからね」
「うん、あんがとね、なまえちゃん」
「どういたしまして!」
それからなまえがぺらぺらと話し始め、それに相槌をうつ荒北。しかし話にはあまり集中できずにいた
「それでね、この間新開がねー」
「ふーん…(このマフラーすっげぇ暖かいしいい匂いする。なまえちゃんの匂い…って俺何考えてんだ?これじゃただの変態だわ)」
「もしもーし!荒北さん!ちゃんと聞いてる?」
「聞いてる聞いてる」
「嘘つけ!」
ぷーっと頬を膨らますなまえに、荒北は内心可愛いなこいつと思いながらも、口には出さないようにぐっと言葉を飲み込んだ
「てかなまえちゃん、その袋何?」
「これ?これはパウンドケーキだよ」
「作ったの?」
「うん、ちょっと失敗したけどね、見る?」
「どうでもいい(どうせ新開にでもあげるんだろうし…)」
「じゃじゃーん」
袋から取り出した可愛らしいタッパの蓋を開け、中身を荒北に見せるなまえ
「…炭?」
「失礼な、ちょっと焦げただけだよ、チョコだからすっごい焦げてるように見えるけど」
「いやそれちょっとってレベルじゃないよネ。新開のことガンにでもしたいのォ?」
「は?いつからこれが新開にあげるものだと錯覚していた?」
「違うの?」
「これはな、荒北のために作ってきたのよ」
「は?俺の?」
「うん、でも失敗したから自分で食べようと思って。捨てるのもったいないし、焦げてるのは表面だけだから剥げば食べれるかなと」
「いい…」
「え?何?」
「別に焦げててもいいヨ、それちょーだい」
「え?でもまた今度作り直してくるよ?」
「作り直したのももらうけど、それも欲しいから寄越せ」
荒北はなまえの持っている袋を奪い
潰れないように鞄に直す
「荒北…」
「何ー?」
「そんなにお腹すいてたの?」
「…本当なまえちゃんって鈍いよネ」
荒北は可哀想なものを
見るような目でなまえを見た
「え?反復横跳びとかすっごい得意なんだけど」
「そう言う意味じゃねぇよ!」
「じゃあどう言う意味だよ!」
「面倒くせぇから気にすんな!」
「わかった、気にしない」
「単純だな、おまえ」
「よく言われる」
「とりあえずこれはもらうぜ?」
「はいよー、味も保証しないけど」
「味見してないのォ?」
「した、美味しかった、ちょっと苦かったけど」
「やっぱすっげぇ焦げてんだろ」
「焦げてない焦げてなーい」
目をあ合わせようとしないなまえに荒北は、やっぱ焦げてんだろと思ったが、せっかくなまえが自分に作ってきてくれたものを受け取らない訳にはいかない
「ま、あんがとね!俺のために作ってくれてー」
「いいんですよ、いっつも新開に作ってるからね。たまには他の人にも作らないと」
「…(結局は他の奴らと同じなんだよな…ずーっと俺だけに作ればいいのによォ)」
「どったの、急に黙り込んで?眉間にしわ寄ってブスになってるよ?あ、元からか!」
「うっせ!」
「痛っ!デコピンはやめろよー」
「早く成功したやつ作って持ってきてネ」
「了解です!」
なまえはびしっと敬礼をすると、荒北に頭をわしゃわしゃと乱暴に撫でられたので、歩きながらも膝かっくんをかました。そして荒北に仕返しされ福ちゃんに泣きつくのであった。
prev|
next