08



ー グリフィンドールに行くならば
ー 勇気ある者が住まう寮
ー 勇猛果敢な騎士道で
ー 他とは違うグリフィンドール

ー ハッフルパフに行くならば
ー 君は正しく忠実で
ー 忍耐強く真実で
ー 苦労を苦労と思わない

ー 古き賢きレイブンクロー
ー 君に意欲があるならば
ー 機知と学びの友人を
ー ここで必ず得るだろう

ー スリザリンではもしかして
ー 君はまことの友を得る
ー どんな手段を使っても
ー 目的遂げる狡猾さ


「へぇ……成る程」

茶ばんだ古めかしい尖り帽子が恭しく掲げられたときは一体何が起こるのかと疑問に思ったが、その帽子がいきなり歌い出したのだから、私の驚きはそれはもう計り知れないものであって。
組分けとはそういうことか。
どうやら個々の性格を鑑みてその特徴に合った寮に割り振られるらしい。問題は、歌を聴く限り私に合った寮が無いということだ。

勇猛果敢な騎士道?いやいや、臆病だとは思わないけど、騎士と呼ばれるほど人様のために身を粉にする気はない。
正しく忠実?苦労を苦労と思わない?いいや、辛いのはあんまり耐えられないね。
古き賢き、意欲……まあ学びたいという意欲はある、にしても、残念ながら頭の具合はそれほど良くないし。
どんな手段を使っても、目的遂げる狡猾さ、これは……強ち遠からずだ。然し乍ら他の寮に比べて歌詞にいい印象を受けないのは気の所為か?まあ、ドラコも確か、スリザリンに入ると言っていたしな……ああいう子が集まる寮なんだろう、お察しだ。まことの友は、欲しいけれど。
と、言うか、前回の私はどの寮に居たんだろう?教えてくれればこんなに悩むことも無かったろうに、あの、狸爺め。
怒りを隠しもせずにダンブルドア校長を見遣ると、数秒差で此方に気が付いた彼はニヤリと笑ってウインクなぞして見せた。わ、わざとだ。わざと教えなかったんだ、あの狸め……。

ロナルドとハリーはグリフィンドールになったようだ。つまりあの子らは勇猛果敢で、騎士道精神溢れてるということか?良いねえ、羨ましいったら。
帽子が頭に着地する前にスリザリンへ入れられたドラコには笑ったが、そろそろ私の番だろう。おちおち笑っていられない……これで7年間が決まるんだ。出来れば楽しくやりたいね、卒業までは死なない計算だしなぁ。ピッタリすぎて可笑しいくらいだ。

「なまえ・みょうじ!」

おお、きたきた……。緊張の瞬間だ。
ゆっくりと踏み締めながら壇上へ上ると、教員席の端のほうに座っているスネイプ教授と目が合った。あんまり長い間私が睨むので、彼は額の皺を深くして顎で急かす。
仕方が無い……腹を括ろう。先輩方のほうを振り返ると、大勢の注目に鳥渡、ほんの少しだが、怯んだ。東洋人はそんなに珍しいか?あんまり見ないで欲しいね……私はパンダではないので。

「どうぞ宜しく、組分け帽子さん」

小声で挨拶してから椅子に座ると、頭の上に帽子が乗せられた。
またきみかね、と口走った帽子をそばに控えていたマクゴナガル女史が右手で締め上げ、ごく自然に咳払いをした。あっぶな、大声でなくて良かった……ナイスフォローです、教授!

「どうか小声で。あの、つかぬ事をお聞きしますが前回私はどの寮に?」
『きみか?前回はグリフィンドールだったよ』
「ええ?……勇猛果敢だったんですか前回の私……」

マクゴナガル女史を見遣ると、彼女は満足そうに片眉を上げて微笑んできた。んんん、彼女はグリフィンドールが好きらしい……担当とかそういうものなのかも。監督とかそういう……

あ、そういえば。

ハグリッドに抱えられて校長室に連行されたあの夜、寮監、とか言ってなかったか?スネイプ教授が。
つまり……ええと。

『今夜のきみも勇猛果敢だが、忍耐強くもあるし……それに意欲もある、ちょっぴり狡猾なのも、変わっておらんね』
「あー……少しばかり不純な動機なんですが。スネイプ教授ってどこの寮監なんです?」

いや、聞かなくても分かる。大体検討はつくけれど。一応、だ。

『スリザリンだよ。
グリフィンドールでも贔屓されていたのに、それでは飽き足らずとうとうスリザリンへ?』
「ええ、ええ……決定」

スリザリン寮監ときた、これはもう、入るしかないだろう!他の寮に入るよりも関わる頻度が高くなるに決まっている。大変不純な動機ではあるが、なんて言ったって……ええと……そう、どうな手段を使っても、目的遂げる狡猾さ。スリザリン生の皆様方にとっても不足はないはずだ。
少々長めの私の組分けを固唾を飲んで見守っていた大広間の諸君が、にやりと笑った私の顔を見て一層耳を大きくするのが分かった。ああ、満足、満足だ。
ハリーやロナルドと一緒の寮になりたかった気持ちも、無いわけではないが。

『スリザリン!』

ワーッとスリザリンのテーブルの方から歓声が上がった。やはり東洋人は珍しいらしい。
どの寮も客寄せパンダが少なからず欲しかったようで、その他三つの寮からは落胆の声とともに疎らな拍手が上がる。
壇上からグリフィンドールのほうを見遣ると、隣同士で座っているハリーとロナルドが眉根を下げて此方を見ていた。
ああ、ごめん、ごめん!可愛いあなた達とも是非是非仲良くしたいのだけれど、スネイプ教授のほうが優先なんだ。
顔の横で手を振った私に二人が振り返してくれるのを見届けてから壇上から駆け下りる。目指すは勝ち誇ったような笑顔を見せている、可愛いドラコが待つ我らがスリザリンだ。
握手を求めて歓迎してくれるスリザリン生の皆様方にハイタッチで応えながら漸くドラコの隣へ辿り着く。息を切らしてドラコの横に腰を下ろすと、彼は器用に片頬を釣り上げて笑った。
笑うのを堪えたものの失敗に終わった、そんな表情だ。

どうだ、あなたのためにスリザリンに入りましたよ!
満面の笑みでスネイプ教授に手を振ると、教授はドラコがしたのと同じように片頬を釣り上げて笑ったが、直ぐにそっぽを向いてしまった。