Others | ナノ


Others


初めて彼女ができた。
授業中よく寝て、僕が嫌みを言うと嫌みで返してくる、そんな女の子。名前は冥地菜舞。特に自己紹介をし合ったわけじゃないけど、まあ、隣の席になった時ぐらいに覚えた。それに、少し山口と仲がいいようだ。



退屈な入学式。新品で少し窮屈な学ランで身を包み、パイプ椅子に腰かける。前の列との間が小さいため、気をつけないと膝が前列の女の子のパイプ椅子に当たってしまう。
…自分の足の長さにため息をつく。身長低いより、マシだとは思うけどサ。
自分の座っている椅子に他人の足が当たるのって嫌だよね。なんか、微妙な衝撃がくるのが嫌い。

だから、配慮してあげてんのに、何、この女の子。

前の列の女の子はうとうとしていた。具体的に言うと、首がかくかくと船を漕いでいる。
確かにこのPTA会長の挨拶、声が強張ってて、面白くないし無駄に長いけど…。こんなに堂々と寝るなんて度胸あるよネ。
首の動きが半端ないよ、君。遠目から見ても寝てるのバレるんじゃない?

PTA会長の話しを聞き流しながら、前列の女の子を見る。彼女のパイプ椅子と僕の膝の距離は1cmないくらい、かな。

あ、PTA会長の挨拶終わった。頭にどうみてもカツラが乗っている教頭のアナウンスに合わせて、礼をする。もちろん前の女の子は寝ている。
残りのプログラムは、…3つか。
教頭先生は宮城県の教育委員長からのお祝いの言葉を朗読し、次のプログラムに入った。

『続きまして、校歌斉唱。一同起立』

前の席の女の子の椅子に当たらないように、立つ。全校生徒+保護者+来賓が起立しているのに、彼女は全く起きる気配がない。そんなに眠たかったのか。
新入生はもちろん校歌とか聞いたことがないので、普通に立ったまんまだが、先輩達が小さく校歌を歌っている。伴奏の方が音、大きいかもネ。

校歌が終わった後、気を払って座る。前列の彼女は首が動く以外何も変化がない。つまり、寝ている。そろそろ目をつけられても可笑しくないんじゃない?
ほら、そろそろ式が終わるよ?

『起立』

教頭の号令に合わせて立ち上がる。

ガタッ


しまった。前の席に足が当たってしまった。
前の席の女の子を起こしてしまったようだ。彼女は状況を読んで急いで立ち上がった。

『これで平成×年度宮城県立烏野高校入学式を終わります。一同、礼。
 生徒着席。生徒の皆さんは担任の指示に従って下さい』

今度は気をつけて座る。前のパイプ椅子に足が当たることはなかった。
前の女の子が振り返ってきた。ちょっと眠そうな顔をしている。

「起こしてくれたの…君?」
「…そうだけど」

起こしてあげた、というより、起こしてしまったという方が正しい。だって、起こす気なんかなかったし。
でも、ここで、偶々足が当たってしまったんだ、なんて説明するのも面倒くさい。女って面倒くさいし。キャピキャピ騒いで馬鹿らしい。

「ありがとう、助かったよ」
「寝不足?ソワソワして昨日寝れなかった、小学生の遠足前日みたいだね」

だから、嫌みを言って突き放す。
彼女は眉を寄せる。感情が表情に出やすいタイプの子らしい。
このタイプは解りやすい。

「いや、ただ単に話が面白くなくて眠く、」
「1の4ー 起立ー! 教室行くぞ、教室ー!」

担任の男の先生が遮って喋る。クラスの皆が先生に従って、教室へ行く。
僕もそれを倣って、立ち上がる。彼女も立った。
…彼女は凄い僕を見ている。少しだけ唇を噛んでいるのが解る。

「…何睨んでんのサ」
「あ、え、ごめん」

彼女はさっと目を反らした。

「何してんだ、お前らー!早く来い!」

担任が体育館の出口あたりで呼んでいる。他のクラスメイト達は先に行ったようだ。
僕はサッと担任の方へ歩き始める。例の女の子はパイプ椅子にぶつかりながら、同じ方向を目指す。…鈍くさい。




--------------




あの日がきっかけだったなぁ…
偶然席が隣になって、嫌味交じりで話すようになってたら、菜舞が気になり始めて…
あんまりこんなこと言ってたら、菜舞にバカにされちゃうからやめとこ。




[back]
[TOP]
×