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剣心は困っていた。
今は梅雨で、中々洗濯物が乾かない。
中干しもしているが、そうそう乾かない。
もう3日も雨続きだ。
そろそろ替えの服がなくなる。
だが、洗濯物が干せず、乾かない。

「もう中干しできる場所がないでござるし…」

その前に、井戸の横で洗濯物をごしごしと洗おうと思っても、雨が降っているので難しい。
剣心は濡れながら井戸から水を汲んできて、台所でいそいそと洗っていた。
だから彼の肩は少し濡れている。

まずは晴れてほしい。
その次に干すところがほしい。

干せれさえすれば、洗濯物はだいたい乾く。
ちょっと湿っていようが、我慢すればなんとかなるのだ。

「さて、どうしたものか…」


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菜舞は困っていた。
もうすぐ剣心の誕生日なのだ。
ただの居候1(剣心)と居候2(菜舞)という関係だが、菜舞は彼に恋心を抱いていた。
神谷道場にお世話になることにしたのも、剣心が誘ってくれたから。
剣心と同じように流浪れていた菜舞に優しい言葉をかけてくれたのは剣心だ。

「…うう、どうしよう」

薫は何をあげる気なのだろうか。
菜舞は薫が抱いている思いを知らない訳ではなかった。
寧ろ、彼女と剣心が笑い合っているのを見て自覚したくらいだ。
薫と剣心の邪魔をする気はない。
なぜなら彼らはとてもお似合いだ。菜舞なんかでは剣心と釣り合わない。
血で汚れたこの手で剣心の手を取れるなんて思ってない。思えるはずがない。

でも。

気持ちは伝えられなくてもいいから。
剣心が生まれてきてくれた6月20日を祝いたい。
記念すべき日に素敵な贈り物を渡したい。

よし。

勇気を出して、剣心に何がほしいか聞いてこよう。



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剣心は仕方なく、半乾きの洗濯物を棹から外していた。湿っているが、干す場所を作るためにしているのである。

「まだ乾いていないがしょうがないでござる…」

ふぅ、と剣心の口から溜め息が漏れる。
この姿を見たら、かの新撰組三番隊隊長・斎藤一は阿呆と呟くに違いない。

「剣心!」
「なんでごさるか?菜舞」

菜舞がやってきた。

「あのね!その…」
「どうしたでござる?」
「えっと…」

剣心は菜舞が言葉を紡ぐのを笑顔で待つ。
一方で菜舞は、唐突にこんな説明をしてもよいものか、と土壇場になって考えていた。

――ええい!!今聞かなくて、いつ聞くの!!!女は度胸!!!

菜舞は勇気を振り絞って口を開く。
彼女の手はキツく結ばれ、緊張しているのが窺える。

「あれだよ、あれ!」
「あれ、とは?」
「ほしい物とか、してほしいこととかないかなって思って!!!いつも剣心にはお世話になってるし!!!」
「ほしい物?うーん、棹でござるかなぁ」
「竿?」

――解った!!剣心は釣りがしたいのね!!

「任せて!!最高の竿を用意するわね!!!
 今度晴れたら一緒に川に行こうね!!」

言うまでもないだろうが(前ページにもあった通り)、剣心がほしい物は洗濯に使う棹だが、菜舞は釣りに使う竿と勘違いしていた。

「(川で一緒に洗濯するということでござろうか?)」

尽く剣心も勘違いをしていた。


斯くして、6月20日は訪れた。






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