東西南北 | ナノ



東西南北


冴奈は瞬時に神谷道場の看板を見つけた。
そして急ブレーキ。

「ここか…」

大きな屋敷だ。
立派に神谷活心流剣術道場、と流派の名前が掲げてある。

「頼もう!」

大きな声で叫ぶ。
途端、バタバタと人が来る音がする。

「はーい!」

美しい女性が門の下までやってくる。
黄色い着物を着て、長い髪の毛を頭の高い位置で結っている。

「緋村剣心殿は御在宅だろうか」
「剣心ですか?えっと、あなたは…?」
「冴奈と申す」

「(女性なのに、男っぽい口調ね…)」

「けんしーん!!おきゃくさーん!!!」
「はーい!誰でござるかー!?」

家の奥の方から男の声がする。
そして庭から姿を現す。

「冴奈さんってい――」

紐で袖を(たすき)掛けにし、ざっくり切った赤い髪。
左頬の十字傷。

――剣心、だ。

冴奈は認識した瞬間、地を蹴る。
自分が最大限出せる速さで走り、剣を抜く。

「はぁあああ!!!!!」
「!!」

彼女は雄たけびを上げながら、横薙ぎに振り抜く。
しかし、剣心は素早く反応して、さっと一歩下がる。
伊達に"人斬り抜刀斎"という字名(あざな)を持っていたわけではない。

「冴奈!?冴奈でござるか!!?」
「そうだ、がっ!!」

冴奈はさらに攻撃を仕掛ける。
剣心の後ろに周り、袈裟斬りしようとする。
だが、剣心は間髪入れずに避ける。
続けて攻撃するために、冴奈は高速移動する。

「…腕を、上げたでござるな」
「侍が剣を持たずに、何ができるって言うんだ!?」

言うと同時に、唐竹を狙うため、冴奈は飛んだ。

「あの技は!!」

髪の長い女性が叫ぶ。
きっと冴奈が出そうとする技に見覚えがあるのだろう。

――飛天御剣流!龍槌閃!!

剣心もきっと何の技が繰り出されるのか見切っている。
しかし、真剣も木刀も携えていない(、さっきまで洗濯物を取りこんでいて、いつも持っている木刀も手元にない)今、どうしようもない。

「剣心!」

鈍く音が響く。
それは、鉄が人の腕にぶつかったような…見事にキャッチされた音。

「薫殿!」

-神谷活心流 奥義の防り 刃渡り-


冴奈の龍槌閃は、あの女性――神谷薫の刃渡りによって、受け止められていた。

「…あなた、さっきから見ていれば……!!
 剣を持っていなくても、できることだってあるのよ!!!」

冴奈は下からキリッと睨みつけられる。

「…何が、できるってんだよ。
 剣心。お前、いつから女に守られる男になったんだよ…!!」

剣を引こうとしても、薫の剣を挟む力に勝てない。

「冴奈」
「…剣心」

剣心はそう言って、冴奈の手首を掴んだ。
薫はその姿を見て、冴奈の剣を離した。

「止めるでござる」
「否定もできないのか」
「拙者は何度も薫殿に助けられた」
「何度も?ハッ!」

冴奈は(あざけ)るような笑い声を出す。

「きっと薫殿がいなければ、拙者はここにいない。ここにいたいとも思わなかった」
「…?」
「人ができることはそれぞれ違うんだ、冴奈。それは押し付けることもできないし、否定することももちろん駄目でござる」
「…何が、言いたいんだよ」
「拙者は剣を捨てたわけではない。託したんだ」

――「オレに託してくれたんだよ、その逆刃刀を!」

「剣を持ってないことには変わりないだろ!!!」
「剣がなくとも、闘えないわけではない。
 しかも、…闘うことは直接剣を交えることではない」

――「政府は汚ぇもんだな、都合の悪いことは新聞に載せないのか」
  「らしいぜ。月岡先生もよくやるもんだ」

――月岡先生は言論の立場で闘ってるんだ。

「…そう、だな」

「冴奈さんっ!!!」

走り込んできたのは弥彦。
額に汗を浮かべている。

「弥彦!どうしたの?」
「何で急にいなくなるんだよ、冴奈さん!脚早すぎるだろ…
 …て、あれ?」

弥彦はやっと今の状況を見た。
冴奈が抜刀し、その腕を剣心が掴んでいる。
若い弥彦には、もう少し状況把握の力が足りないようだ。

「弥彦、悪かったな。
 剣心、腕を離せ」

言われて剣心は腕を離す。
そして冴奈は刀納した。

「…本当は、剣心の顔を見に来ただけだったんだ。けど、弥彦から剣を持ってないと聞いてな。許せないと思ったんだが…
 そういう理由なら、納得できた」
「冴奈…。ありがとう」
「違うだろう。礼を言うのは私だ。
 ありがとう、剣心。違う考え方に出逢えた」

冴奈の殺気がなくなり空気が和んだ。
そして気不味そうな声がする。

「あの…剣心。こちらの方は?」
「ああ、薫殿すまないでござる。さっきはありがとう」
「いいの」
「彼女は、緋村冴奈。拙者の妹でござる」
「飛天御剣流だってよ」

剣心の説明に、弥彦が補足する。

「妹ー!!!?」

そして、薫の声が空に響いた。


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管理人から!

弥彦に奥義をしてもらおうかと思ったんですが、弥彦の脚力ではヒロインに追いつかないかと思い、師範である薫に奥義を披露してもらいましたw
何度も龍槌閃を見てますし、師範ならできる!!そう信じてる!!!←
お察しかと思いますが、ヒロインは御剣流でないあの技も会得してます(笑)
ていうかヒロイン。着物でよく、しゅくt…着物でよく飛天御剣流使えるなぁ…

2012.2.12./.5.2.


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