東西南北 | ナノ



東西南北


(うら)らかな日差しが降り注ぐ。
東京は快晴であった。

彼女は遥々京都から徒歩で東京へ訪れた。
とある人物に逢うためだ。
その前に東京にいるという兄に逢っていこうと思う。
だが、彼が"神谷道場"でお世話になっている。ということしか、彼女――冴奈は知らなかった。
通る人に根気強く道場の場所を聞けばいいのかもしれないが、それは時間がかかる。
しかも、彼女が道を通ろうとすると、人々は皆避ける。明らかに避けられている。
この状態では辿り着くために、さらに時間がかかるだろう。

それでは手っ取り早く神谷道場の場所を教えてくれるのは誰か。

日本の情報を取りまとめ、制御する政府。
その政府の管轄の警察である。

そのため冴奈の脚は警察署へ向かっていた。



「たのもー」

警察署の前で大きな声を上げる。
門の前には誰もいなかった。
別に建物の中から殺気が放たれていないので、事件ではなさそうだ。

「あのー!もしもーし!!」
「煩い!誰だ!!」

やっと顔が(いか)つい警官が出てきた。
そして、目の色を変える。

「貴様…!!警察署前で堂々と帯刀か!!廃刀令を知らんのか!許さん!!!逮捕じゃっ!!!!」

警官は手錠を懐から取り出した。

「え、あ…」

冴奈は肩からぶら下げて物を見る。
師匠から餞別としてもらった、刀。
刀を紐で肩にかけているのだ。

――そうか、廃刀令が出てるんだ。

だから道行く人が私を怪訝そうな目で見つめてたのか、と納得する。
しかし納得している場合ではなく、警官が追いかけてくる。
冴奈は逃げる。追いかけたら逃げたくなるものだ。

「待てぇっ!!!」
「じゃあ追いかけてくんなっ!!!」
「そういうわけにはいかん!!!」
「何なんだよ!!」

――俗世はこんなのが当り前なのか!?

帯刀が禁止されて早7年、明治16年である。
冴奈はほとんど山奥で暮らしていて、世間のことを知らなかったのが裏目に出た。
もちろん。普通なら警察官に追われることはない。

「大人しくお縄に――!!」

――さっさと逃げるが勝ちだろ!

冴奈は地を駆けた。
目にも映らぬ速さで。

警官は茫然とした。
急に帯刀していた、ふわふわした髪の女子(おなご)が消えたのだから。

「…女子(おなご)!!!?」

警官は今更気付き、驚いたようだ。




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一方、警官から逃れた冴奈は困っていた。
警察署へ行って神谷道場の場所を聞こうと思っていたのに、叶わなかったからだ。

「はーあ、どうしよ」

――取り敢えず、帯刀しなければいいんだろ?

冴奈は今、着物(中袖)を着ている。
刀を下げている紐を、肩から下げ、刀を取る。
修行に使っていた刀は、刃が薄かったのだろう、軽かった。

「うーん…」

刀を手に持ってみたはいいが、この刀をどこに置こうか。
置く?隠す?

「………」

刀は60cmほどで、体に身につけて隠すとなると難しい。

「……………」

冴奈はほとほと困る。

「お前…刀見つめてどうしたんだ?」

横から話しかけられた。
見ると、髪がツンツンした青年が立っていた。

「どうしたって… 廃刀令のことをさっき知ってな。どこに刀を隠そうかと…」

「(女っぽい髪型してるけど、口調からして男か?また随分と優男だな)」

彼が知る中で強いものはほとんど優男だ。

「………はぁ!?」

弥彦は驚いた。

「お前廃刀令のこと、知らなかったのか!?あれが出たの、随分前だぞ?」
「…煩いな。山から降りてきたばかりなんだ。知らなくて当然だろ」
「お前、随分山奥から来たんだな…もう常識なのに…」
「でも一刻(現在の30分)下りれば、街に出れたぞ?」

冴奈の脚を持ってしてである。

「ふーん。じゃあお前が住んでいた所はよっぽど閉鎖的だったんだな」
「…そうかもな」

この10年はほとんど師匠と2人きりで暮らしていた。
偶に師匠にパシられて、山を下りていたくらいしか街に出ていない。
師匠は滅多に冴奈を街に出さなかった。

「で?そんな世間知らずの男がどうしてこんな所に?」
「…私は女だが」

空気が固まる。

「お、お前…女、なのか?」
「そうだが?女もんの着物を着ているだろう。一張羅だ」
「……悪かった」
「いや、いい」

こんな女性もいるのだな、と彼は思った。
刀、口調からして男だと確信してしまった。

「何で東京に?」
「人に逢いにな」
「人?」
「ああ。神谷道場って所にいるらしいんだが…」
「神谷道場!?」

彼は驚く。
神谷道場は自分が師範代として神谷活心流を教える場所だ。

「場所知ってるのか!?」
「…てめぇ、刀持って、道場に何のようだ?」

彼の声に殺気が籠る。
刀を見つめている姿が気になって声をかけたのだが、神谷道場の誰かを狙う者だったのか。

「は?どうしたんだよ、お前」
「うるせぇ!答えろ!!神谷道場に何の用だ!!」
「だから、兄に逢いに」
「兄!?」

兄とは誰だ、彼は熱くなった頭で考える。
だが答えは浮かばない。

「5年前、兄が神谷道場って所に世話になってるって聞いたんだよ。…もしかして、もういない?」
「誰だ、その兄って!」
「…緋村、剣心」
「剣心!?」

彼の脳裏に、穏やかに笑った剣心の顔が映る。

「ってことは、」
「そうだ、私は妹だ。緋村冴奈。よろしくな」




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管理人から!

遂に始めちゃいました(てへぺろ☆)←
長くなるか、短くなるかは未定ですが…
精一杯頑張ります(笑)

2012.2.11./.4.8.


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