東西南北 | ナノ



東西南北


「冴奈、月岡津南は隣町の破落戸長屋に住んでいるでござる。拙者はついていくことはできないが…気をつけて行ってくるでござる」
「冴奈さん!刀は竹刀を袋に入れる要領で袋に入れとけば、廃刀令違反がバレることはないから!」
「じゃあ私のを使うといいわ!余ってるから。是非使って、冴奈さん!」

さっきまで自分に温かくしてくれた人達の言葉が思い返される。
最後まで冴奈を案じてくれた。

冴奈は刀を袋に入れ肩に下げ、隣町に向かっていた。
梅雨に入っているが、今日は雲が多いものの晴れていてよかった。
剣心が(汚い字で)書いた地図を片手に持ち、冴奈はようようと月岡の元へと向かっていた。





暫く歩いた後。

「さて…」

彼女は家の前に立っていた。
もちろん、月岡津南の家の前だ。さっきこの家の隣人に聞いたら、望んでいた答えが返ってきた。

戸をたたく。

「頼もう!私は緋村と申す!!月岡殿の用心棒にならせて頂くべく、こちらへ参った!!」

返事はない。
冴奈の存在が空気のようだ。

――留守か?

いや、違う。
このおんぼろ長屋からは人の気配がする。気配を消そうとしているような…
確実にこの建物の中に月岡津南はいる。

「月岡殿!!!私は貴方の力になりたい!開けて頂けないだろうか!!」

冴奈の声だけが、この長屋に響く。
昼だからだろうか、他の住人はいないらしい。

「月岡殿!月岡殿!!!!」

長屋からは物音ひとつしない。
御剣流の理を体現させてくれる人が、ここにいるのだ。

「……」

意を決した。

「失礼(つかまつ)る」

冴奈はボロい障子を開けた。もちろん許可なしで。
部屋の中は汚かった。あまり空気の入れ替えなど、掃除も(ろく)にしてないように感じた。

部屋に立っていた人が"何か"を投げてきた。きっと月岡津南だ。冴奈を敵だと思っているのだろう。
冴奈は投げられた物を斬ろうとした。背中に提げている刀に手を伸ばす。
しかし、手には布の感触。そうだ。刀は竹刀入れの中に入っているのだ。
仕方がなく、竹刀入れに入ったまま、刀を振るう。提げる紐が腕にかかり、剣速が鈍る。
剣に何かが当たった感覚が腕に伝わる。それは地面に叩きつけられる。
そして光った。
炸裂弾であったのだ。

冴奈は本能的に危険を察知し、後ろに飛び退()く。しかし、着ているのが脚を開きにくくする着物であるため、少し反応が遅れた。裾に砂が付着した。
辺りに煙が巻き起こった。かろうじで爆風から逃れた冴奈は竹刀入れから鞘ごと刀を取り、抜刀した。鞘は左手で持つ。

段々と砂埃が晴れる。人がこちらに歩いてくる。
派手な上着に、奇抜な額当て。両手には炸裂弾を持っている。

「月岡殿であられますか」
「無礼な奴だな。何処の手のもんだ」
「私はただ単純に、月岡津南殿のお手伝いがしたいだけだ!多少剣の腕にも自信がある!!
 貴殿の用心棒として雇って頂けないだろうか、傍に置いて頂くだけでも構わない!!!」

彼女は叫ぶように言った。

「別にそんなものいらない。とっとと帰れ」
「月岡殿の新聞を通して弱き者を守る姿に共感した!!政府から国民を守る、その姿に!」
「オレは明治政府が気に入らないだけだ」
「国民の視点に立っているからでしょう!?どうしても月岡殿の傍で、弱き者を守る手伝いがしたい!」

「お前はオレの何を知っている!」

月岡は声を荒げた。冴奈は驚く。

「…兎に角、帰れ。オレには用心棒(そんなもの)必要ない」
「そんな脆い爆弾では、何かあった時にお逃れになれない。たくさんの人が貴殿を必要としているんだ」

冴奈は剣を横に置く。
そして両手をついた。

「お願い致します。貴殿のお手伝いをさせて下さい」

膝もつき、頭を下げる。
即ち、土下座をして月岡に頼む。

「……袴を穿いて来い。見たところ動きにくそうだ」
「え…」
「オレの用心棒だろう。動きやすい格好で、いつでも敵とやらと対峙してもらわねばならないからな」
「っ!はい!!すぐ袴を穿いてお戻り致す!」

冴奈はバッと顔を上げ、月岡を見上げる。
彼は後ろを向いていた。さっきまで拒絶していた手前、会わせる顔がないのだろう。

冴奈は剣を再び肩にかけ、準備運動もそこそこに、疾走した。
月岡には砂煙が立っている所しか見えなかった。

「…あれ。あいつは?」



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管理人から!

津南の口調難しいです!!!
戦闘(?)の描写、もっと上手く書けるように頑張ります(*´ω`)

2012.4.21./.4.28.


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