06:伝えたいことは今も昔もずっと同じままだよ


僕の名前は苗字真生、いきなり小さい男の子に自己紹介をされる、

「ねぇ、お兄ちゃんは死神なの?」

5、6歳の男の子は母親の仕事の邪魔にならないように色々な死神に話しかけて寂しさを紛らわしてるみたいだ

「俺は、黒崎一護、死神代行だ、」

「よく分からないや、」

琥珀色の目をして目を真ん丸にさせながらこちらを真っ直ぐ見てくる男の子は"真生"と言うらしい

「お兄ちゃんは"パパ"っているの?」

「あぁ、」

「僕のね、パパはね、今、遠くにお仕事しに行ってるんだって」

パパね100年も仕事に行ってるの、という無邪気な回答に俺はどのように返せばいいのかわからなかった

「ねぇ、真生?黒崎くん、たくさん戦ったからね、疲れてるんだって」

母親と思われる四番隊の苗字さん、と呼ばれる女性が息子に話しかける

素直に、はぁい!、と元気よく話しかけた"真生くん"がパパにあげる、と言ってた、とてもお世辞にも上手いと言えない手作りの包帯が手元に残る

「パパに会ったら渡してね、」

真生、と呼ばれた男の子がまた違う患者の所に行くのを見送る

「ごめんなさいね、あの子、私の仕事の影響でずっとここにいるものだから誰彼構わず話しかけちゃうのよ、」

「いや、俺にも妹がいるんで慣れてるので大丈夫っス」

「その包帯、何回も作っては色んな人に渡してるのよ、」

「真生くんのお父さんって、」

「101年前にね、ある事件に巻き込まれて失踪してるのよ、」

寂しそうに笑うその顔は、見てて痛々しかった









グリムジョーと対峙していて、ルキアもやられて、俺自身も内なる虚にビビってる時に2度目の対面を果たした

"破道の八十八!!飛竜撃賊震天雷砲"

一気に霊圧を上げ、攻撃をするその様は久しぶりに戦場に立つという彼女の言葉を疑いたくなる程に隊長格と変わらない強さだった

「久しぶりね、東仙元隊長、」

「おや、君がいるだなんて101年前でも思い出したかい?」

「あら、1度たりとも忘れたことはないわよ?藍染惣右介に伝えてもらえる?全ての借りは次に会った時に返すとね、」

「藍染様の野望が護廷十三隊ごときに止められるはずがない、」

「止めるわよ、それが護廷十三隊だから、」

破道の九十一、千手皎天汰炮

ド派手な攻撃をする合間に俺達を庇い、治療をするその様は、本当に四番隊かと疑うレベルだ

「苗字三席、ありがとうございます」

「いえ、傷付いた隊士達を癒すのが四番隊の務めだから気にしなくて良いのよ、」

随分と派手にやられたわね、と苦笑いをする彼女だったが少しだけ、"101年前"という言葉に動揺してるように感じられた








「ったく、なんで俺だけ皿洗い……」

「1番遅かった奴が皿洗いって言うたやんか、」

ええ加減諦めェ、と雑誌を読みながら返答する平子にひよ里が、うっさいわ!ハゲ真子、って言う

ん、待てよ、

「おい、ひよ里!今、なんつった?」

「はァ?ハゲ真子って言うただけやんか!なんやねん?」

「真子……」

なんで俺は今まで気付かなかったんだろう
平子の目を思わず見る
あぁ、

「サラサラの金髪で猫背で、やる気がなさそうでヘラヘラしてて緩く喋る関西弁のマヌケな男」

「なんやねん、喧嘩なら買うたるぞ?」

挑発に乗ってこない俺に、なんやねん、そない見つめられると穴が空いてまうやろ、って戸惑ったように言う

「……尸魂界で、名前さんという人に会った」

名前さん、と言った瞬間誰もが動きを止めた
そして誰よりも、名前さんという言葉に反応したのは平子だった
もし、会った時に伝えて欲しいの、と名前さんに言われたある言葉を思い出すのはそんなに難しいことじゃなかった

「名前さんから、平子にずっと伝えたかったことがあるから伝えてくれって頼まれて、」

この言葉を伝えたら、真子を困らせちゃうのは分かるんだけどね、と言う名前さんは今にも泣きそうだった

「昔も、今も、ずっと好きだって、」

とても短くて単純なこの言葉にどれほどの、葛藤や思いが込められてたのだろう

ホンマにアホやなァという言葉が虚しく空を切る

ちょっと外出てくるわァと吐き出した平子を追いかけられなかったのはあの時の名前さんと同じ顔をしてたからだ
そして袴の袂に入ってた真生くんが作った包帯は渡せずじまいだ、
多分それでいいんだと思う
何も目の前にいるこの人をこれ以上苦しめることは出来なかった

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