11:あなたを好きという事だけで 私は変わったよ


闘いが終わった
黒崎一護の死神の力との引き換えに取り戻した平穏な日々は、まだ深い傷跡を残してる

「雛森副隊長」

彼女も深い傷跡を負った1人だろう

「日番谷隊長から見舞いの品がとどきましたよ、」

ごめんなさい、いつもいつも、と弱々しく吐く彼女はまた少し痩せたみたいだ

「副隊長代行なら大丈夫ですよ、これでもかつては副隊長やってたので」

ゆっくりでいいですから、と声を掛けて五番隊に向かった








五番隊が何やら騒がしい

「四席、どうしたの?」

「あ、名前さん、五番隊の新隊長が決まったみたいで」

胸がざわつくのが分かる

「そう、そしたらここに来るのもあと少しね、」

「名前さん、雛森副隊長は戻ってくるのでしょうか、」

「ん、あとは心の問題だから、」

憶測で物は言うべきではない、ただ、

「彼女は強いから大丈夫よ、」

「名前さん、」

「何、五席?」

「新隊長が名前さんに会いたいとおっしゃっています」

「ん、わかった」




執務室に入る

「失礼します」

「色々とこっちの隊長と副隊長が居らん間に世話になっとったみたいやなァ、あ、俺はまだ引き受ける言うてないんやけど昔隊長しとった時におった部下達に外堀埋められて、なんや引き受けるみたァな流れにされとるみたいなんや、むかーし昔に五番隊隊長やっとった、」

相変わらずのマシンガントーク、忘れもしない懐かしい声、

「……真子、」

「!?……お前やったか、名前、」

何やらただならぬ雰囲気を察したであろう席官たちがどよめくのが分かる
真子が隊長してる頃からいる三席が、俺たち休憩取ってきますと言って一斉に執務室から出る

「……少し痩せたんちゃうか?」

日常会話から入ってくるあたりが真子らしいな、と思う

「髪、切ったんやな」

「……お互い様でしょ、」

声が震えるのが分かる、

「四番隊に移隊したんやな、」

「子供が出来たから、一度引退したの、」

「…………」

「真子との子供、って言ったら信じる?」

「……!?」

大きく目を見開くのが分かる

「分かってる、今更こんなこと言っても困らせるって」

堰を切ったかのように言葉が溢れ出す

「私、真子がいなくなって、寂しくって、その時に妊娠が分かって、」

話してる言葉が支離滅裂だし、涙まで出てくる
こんなの絶対に困らせてるって分かってるのに、溢れ出したものは止まらない

「独りが寂しかったの、何かに縋りたかった、だから、ずっと、真子と、真生を重ねてて、」

真子を見ることなんて出来ない、きっと呆れた顔をしている、いや軽蔑してるかもしれない

「最低でしょ?馬鹿でしょ?私ばっかり真子を忘れられなくて、皆、進んでるのに、私だけ止まってたの」

もはや立てずに、しゃがみこむ
かつて付き合ってた女がこんなみっともない姿を晒してるのだから、きっと真子は忘れたいに決まってる

「本当に、情けなくて、ごめんね、私、真子が、」

「もう、ええわ、」

懐かしい体温だ、

「ごめんなァ、独りが嫌いって知っとったのに、ずっと独りにして」

痛いくらいに、真子を感じる

「ごめんなァ、独りで産むの怖かったやろ、ほんまに情けない父ちゃんやなァ、俺、」

この人の優しさが、きっと私を弱くする

「優しくしないでよ、そんな事されたら、私、馬鹿だから、期待しちゃう」

「ほんまはな、ずっと待ってて欲しかった」

俺の事、忘れないで信じて待ってて欲しいと願ってた、と掠れて震えた声で呟くのが聴こえる

「俺、情けないねん、挙句にとんだもんをお前に残してってるって知らんで生きとったんやから、」

なァ、俺ら、やり直さへん?と真子が言う

「、おかえり、なさい」

この答えで伝わるだろうか、

「おん、ただいま、」

真子の顔を見れば、あの頃の大好きな笑顔があった
髪は短くなってるし、舌に見慣れない金属が付いているけど、私の好きな真子だ、
目が合って顔を近づける、

「、平子隊長!!名前姉さん!!」

びっくりして思わず身体を離せば、執務室に多くの五番隊士が流れ込む

「……ちょォ、お前、空気読めや、」

真子が青筋を立てる

「本当に!!良かったっす!」

私以上に号泣してるであろう四席は、真子が隊長にいた頃から五番隊にいた

「お前ら、休憩いらんやろ!とっとと仕事せぇ!」

口調こそ、怒ってるものの顔が、あの頃の真子だ

「ねぇ、平子隊長、」

敢えて彼をこう呼べば目を見開かれた

「おかえりなさい、」

久しぶりに心の底から笑った気がする
大好きなな声で、大好きな表情で、ただいま、と返ってくる

あぁ、これがきっと幸せなんだ

back