09:何年もの前の遠い昔が今でも昨日の事のよう
"感情のない笑顔を貼り付けとる奴やなァ"
これが名前の第一印象
真面目で成績優秀、斬術もそこらの席官の男共がかかっても叶わへんやろうし、鬼道・白打に至っては二番隊出身ということもありかなり死神として優秀や
唯一の難ありとしては性格やった
愛想がない訳やない
ただ結局は表面的な付き合いしかせぇへん奴や
飲み会の席にいても距離を保って、こちらを見とる
そして自分の本質には触れさせず、当たり障りのないように振る舞い、自分は俺達とは違うんやと、きっちり線を引いているその態度が気に食わんかった
目が合えば、いつだってあの薄ら寒い愛想笑いを浮かべる
こいつの意志は、どこにあるんやろうか
「その笑顔やめェ、」
そう言ってからは、愛想笑いをせんくなった
ある日、ひよ里が猛烈にキレとった
話を聞いてみたら、名前と任務に行った際に自分を庇い怪我は全部引き受けて、任務を遂行したらしい
「ひっどい怪我やなァ、」
嫁の貰い手なくなるで、と声を掛ければ驚いた顔をする
「命に別状はないので大丈夫です」
「アホやなァ、自分が怪我したら仲間がどう思うかとか行動するかとか考えたことないんかい、」
「仲間に死なれるくらいなら、私は自分が死ぬことを選びます」
今までの取り付けた表情や感情の篭もってない声とは違って思わず顔をあげる
「何も出来ないと泣くのは、もう嫌なので」
七番隊の副隊長に来る前は確か二番隊か
いっちゃん隊士が死ぬ隊におったからか、と合点がつく
ハァーッとため息をつき、名前の頬を摘む
「ホンマにアホやなァ、名前がそう思っとんのと同じでひよ里や他の七番隊士かて名前が傷付いたりするのを見るのがしんどいんや」
目を見開きこちらを見る名前にそんな顔も出来るんやなァと思った
「大切な人を失うんが怖いんは分かる、しゃァけどな、独りでは誰も生きられへん、」
傷付きたくないならその傷から逃げたらあかん、
「ちょォいらん説教してもうたな、」
けど一歩踏み出してみてもええんちゃう?
「おい、名前!オメェまたサボりやがったな!」
「サボってないですよー!甘味を取らないと仕事が捗らないんですよ、ほら、隊長もどうです?期間限定の苺味の饅頭ですよ?」
こいつ、誰や?
きっとそう思ったのは俺だけやないはず
「で、お前はなんで五番隊でサボってるんや」
「え?一歩踏み出せと私に言ったの平子隊長じゃないですか?あ、この最中美味しそう」
ね、平子隊長?
そう笑う名前の笑顔は嫌いやなかった
お互い一緒にいるのが居心地良かった
酒の勢いで一線を1度超えてからは、距離がどんどん近くなってった
「ねぇ、私と真子の関係ってなんなんだろうね?」
「……俺は恋人やと思っとったんやけど」
「人を好きになるって事自体よくわからない」
「せやなァ、しゃァけど、」
"俺は名前とだけ口付けしたり、身体を重ねたいと思うとる"
そう言えば赤い顔をする、
「好きやで?そない簡単に離したらんわ、」
不本意ながらも現世に来た時、自分の意識が戻った時に最初に考えたのは名前やった
強がっとるくせして、独りが嫌いなあいつを独りにしてしもうた
何より、名前なしの生活をこれから送らないと行けないと思うと胸が張り裂けそうだなんて、陳腐な表現じゃ足りないくらい苦しかった
忘れようと何度も思った
でも忘れられんかった
"昔も今も好き"
一護から貰った名前から俺への伝言は至って単純な言葉やった
「アホやなァ、」
そないなこと言われたら忘れられなくなるやんけ、
俺はもう、お前とは違うんや、
柄にもなく鼻の奥がツンとした
懐かしい霊圧を感じた、
「名前の霊圧やな」
一護が出て行ってから変に静まり返ってる倉庫でリサが呟く
「何、やられかけとんねん」
思わず斬魄刀を掴み外に出る
ひよ里の声が聞こえたが無視をする
変に気持ちが高ぶってることを悟られたくなくて破面を挑発しながら、名前を見る
副官章を付けておらず、斬魄刀を持ち歩いてないその姿はまるで四番隊を彷彿させた
……どういうことやねん、100年でお前に何があったんや、
そんな事も今の俺には聞く権利すらない
真子?
大好きだったあの声で俺の名前を呼ぶ声が聞こえる
「ねぇ、真子、今も、昔も好き、」
死にかけてるのに何を言うてんねん
「幸せに、なって、」
アホやなァ、思わず呟いた
お前が居らんのに幸せな訳ないやんけ、
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