第一印象はとても良いとは言えるものではなかった

「苗字!」

『大前田副隊長?どうされましたか』

「隊長が例の場所に行ってるから迎えに行ってこい、ったくまたあの人サボりやがって…」


また例の場所か、と思わず苦虫を噛み潰したような表情になる
本来、私ほどの身分では行けない場所、


「ったく、昔から朽木の坊っちゃんの所に行ってサボるくせは変わらねぇなぁ」

同い年で、まさにエリート道をまっしぐらと言われてる男、

「顔も良いわ、頭もいいわ、強いわ、朽木家きっての天才児、苗字テメェも精進しろよ」

精進するも何も、一方的な嫉妬しか生まれない
何せ奴の瞳には私は映ることはない
同い年でここまで違うのか、と思わず空笑いすら溢れる
方や当代きっての四大貴族の天才児と、仕方なく家督を継いだ下流貴族の端くれだ
同い年というだけで比べるのもおこがましい

『はい、』





『夜一様』

朽木家に許可を取り、入口から覗けば楽しそうに菓子を摘んでる上司が見える

『大前田副隊長がお探しです、午後の見廻りは夜一様がやるようにとご伝達を承りました』

「面倒いのォ、名前が行けば良いじゃろ」

『夜一様、総隊長殿のご指示だそうで決定を覆すのは厳しいかと』

「んんー、例の事件もあるしの、そちは蛆虫の巣を任せた」

『は、?』

「恐らく喜助がまた引き抜きに来るみたいと言ってたような言ってなかったような…どちらにせよそろそろそちに蛆虫の巣は任せようと考えてたからの」

かつて浦原喜助が管理していた場所か、と思うと眉間に皺が寄るのが分かる



「おや、これはこれは二番隊の三席の苗字殿ではないか」

『……!?朽木隊長、』

雲の上のような人が自分に話しかけている
何故、自分を知っているのか

「流石は、夜一君をうならせるだけの実力の持ち主なのじゃろうな」

「まだまだ青いところはあるがの、坊と同い年じゃったかの?のォ、白哉坊!」


瞬歩で力を使い果たしたのか地面に這いつくばってる天才児を見る
一瞬目が合ったものの、赤の他人だ
あちらも何か発するべきなのかと戸惑ってるのが伺える
いや、そもそも自分に興味すら抱いてないと気付く
その瞬間ひどく自分が恥ずかしくなった
この場からいなくなりたい、



『私は、まだ業務が残ってる故先に失礼させていただきます』



朽木隊長に一礼をし、逃げるかのようにこの場を去る
何を思い上がっていたのだろう、ただ隊で女1人の私を気遣って下さっただけだ
自分はひどく無力なのだから、思い上がってはいけない、傷付くのは自分だ







「あ、名前さん、お久しぶりっす」

『浦原………隊長』

「あれ、すごい間合い感じたんすけど」

隊長になったくせして相も変わらずヘラヘラしてる男だ

『これが脱退取り消しの申請書だ』

「わざわざすいません、そういややっぱり名前さんが管理隊引き継いだんスね」

『あぁ、近頃貴様が余計なものを作ろうとするからこちらは酷く大変だ』

「ははははは、」

この男が酷く気に入らない、ヘラヘラしてるくせして強い
何よりあのお方からの信頼はこ奴に叶わないと思うと歯痒い


『それより貴様の技術開発局とやらは魂魄消失事件について何か分からないのか』

「ははは、今調べ中っス」

使えない、と吐き捨ててもヘラヘラしてる

『蛆虫の巣から開発局とやらに引き入れる分には構わんが気をつけろよ、一度は脱退させられた身なのだからな』

「大丈夫っすよ、今までは彼らは力を発揮出来る場所がなかったそれだけっすから、それに発揮出来なければ切り捨てるまでっス」

普段ヘラヘラしてるくせして、時折見せる冷たい表情に寒気を覚える
こいつのこういう所が苦手だ、





近頃変わりゆく様に着いていけないのは自分だけなのだろうか
二番隊においてもだ、浦原喜助がいなくなってから一気に自分の仕事が増えた
単純に言えば頼られて嬉しい
だが、夜一様がどこか遠くに行ってしまう気がして怖いという気持ちもある

「名前さん?」

『あぁ、すまぬ』

「じゃあ明日にでも彼らを迎えに行きますんで」

『しかしこんな小さな奴ですら、蛆虫の巣に入れられてたのだな』

「阿近っスか?彼は引き抜く中でも特に期待をしてるんスよ」

『それにしても涅を外に出すとは本当に大丈夫なのか、何かが起こればすぐに貴様共々処断するからな』

「ははっ、気を付けないとっスね」

十二番隊の随分と変わった風貌を見ていたら不意に話しかけられる

「名前さん、身体には気を付けてくださいね」

『……貴様に心配されるとは、私も落ちたものだな』



強がりこそ出るものの、身体と心が着いていかないのは事実、



『案ずるな、貴様がいなくても二番隊は落ちん』

相変わらずいつも口に出るのは強がりばかりだ
二番隊三席になって飄々と過ごしてたこいつのしていた仕事の大変さを初めて知った
奴の仕事をするようになって何回怪我をしただろう
その現状が歯痒くてしょうがない



『貴様も精々足元救われないようにするんだな』


扉を閉めた後に、胸に手を当てそっと考える
もしかしたらいずれ誰もいなくなるのではないか、
どうしてもそんな気が拭えない
ようやく頼れる上司が出来て、何やかんや言いつつも本音をさらけ出せる仲間も出来た
また孤独になるのにわたしは耐えられるのだろうか
いや、それなら私には誰もいないのだと言い聞かせよう
それでもいい、この日常が今あるのだから
それでもいい、この幸せを大切にしたいのだから







(WINTER KILL)




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