自分とは一体、何なのだろうか





「今日から、幼名を捨て、苗字名前で生きて参れ」




厄年かと思うくらいに、兄たちが亡くなっていく最中、突然父親に言われて戸惑う
ただ、私はそんな言葉に抵抗することすら許されない


兄達の数が減るに比例して、父は焦りからか私に厳格になっていくのは周知の事実だろう
遅かれ早かれいつかこんな日が来るのはとっくに分かっていたのだ



「今日からお前は、苗字名前だ」

『…苗字、名前』

「苗字家歴代最強とも言われたお前の祖母が使ってた名前だ、」




慣れない名前を何度も口で唱え、反芻する



「お前には護廷十三隊に入隊してもらう、お前は二番隊に所属し、明日から隊長となる四楓院様をお守りするのだ」



何時ぞや父と見に行った行列にいたお姫様を自分はお守りするらしい
幼き日に父に連れられ、拝んだあの姿は神との対峙に近かった



「誇りに思うのだ、あの方を護れるのだから」




はい、と返事をしながらもまるで他人事かのようにしか感じなかった
私もいつか、兄達のように死んでいくのか



『兄様は、』

「…あやつは、あの方の下でしか任務を果たせないと啖呵を切ったらしくな、当代の恥ずべきことだ、二度とあやつの名は出すな」



ここ数日のもっぱらの噂だ。その噂とやらに聞くと、兄は引退し真央霊術院の教壇に立つという
元々、二番隊に所属したのも先代隊長が居たからというのは聞いてたもののここまで強固なものとは父は思ってなかったのだろう



「お前が苗字家を継ぐのだ、名前」



聞き慣れない名前で返事をしながらも戸惑う
父から受けた期待、いや、押し付けと言うべきだろうか
私は知っている、父が長兄に期待をしてたのは傍から見ても明らかだったから
本当は長兄にこの家を継いで欲しいのだ
長兄のやる気のなさと比例して次々亡くなっていく息子達、ついには傍目に長兄までもがこの若さで引退と言うのだから、最悪の選択とでも言うべきだろう



「五大貴族の1つである朽木家の白哉様を知ってるか?白哉様はお前と同い年であるにも関わらず歴代きっての天才と言われておるのだ、お前も見習え」



知らない人の知らない事情を押し付けられ、私には人権がないのだろうか



「朽木家が羨ましい、あのような天才児が跡継ぎとあればどれほど幸せのことか、」

隣の芝生が青く見えるのかもしれない父、自分を貫き我を通す長兄



「お前も精進して、必ずしや命を賭してでも四楓院様をお守りするのだぞ」



家のために都合良く使われ、兄妹の尻拭いをさせられ、私は他人を守るために生まれてきたと言うことだけは分かった



『承知致しました、』



諦めた、



『苗字名前、名に恥じぬよう精進して参る所存です』



まるで、他人の口から出た言葉かと疑うくらいにスラスラ出てくる自分に嘲笑する
私は、私じゃない人生をこれから生きるのだ





これが子供の頃に目指した場所だったのか、










(イラミイナカハ)




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