02
色素の薄いふわふわした髪。気だるげな瞳は赤く、いつも着けているヘッドフォンと同じ色。
なんだか不思議な雰囲気を持つ、琴平 渚。
そんな琴平に、まだ知り合って数週間だというのに、結構ディープなことを相談された。
「俺の性癖、変かもしれない」
「へっ?」
琴平 渚は無愛想だがいい奴。同じ男なのに華奢で、どこからかいい匂いがする。
それが俺の琴平に対する印象。
寮の共同スペースで神妙な顔持ちをしていたので、なんだなんだと思い、話を聞いてみたらこうだ。
「性癖は人それぞれだろ?」
「……」
そうじゃない、と言った雰囲気。
何か言いたげな琴平を待つと、いきなり爆弾を落とされた。
「耳元で囁いて欲しい」
どこか恥ずかし気に、いつも装着している赤いヘッドフォンを首もとに下げる琴平。白い耳が露になった。
ごくり、と無意識に喉が鳴った。
一瞬でも琴平を邪な目で見てしまったことが悔やまれる。いつもうるさいあいつはなんでこういうときは静かなんだよ…!
「えっと、なんで?」
「こんなの、虎杖にしか頼めない」
あ"あ"〜〜
わかったから照れるのやめてもらっていいかな!
こっちまで移るから!
「頼む」
ずい、と耳を寄せる琴平。
話が見えないが、どうやら頼られているらしいのでやるしかないっぽい。
白く小さい耳に手を添えるとぴくりと反応した。
吸い寄せられるように耳元に顔を近づける。
ふわりと石鹸のようないい匂い。
やばい、なんて言おう。
あ、そういや……。
「今日の晩飯、何食いたい?」
「………」
しん、と静まり返る。
え、琴平さん?
琴平の俯いた顔を覗き込むと、ぱっと顔を上げた。
「揚げ茄子のおひたし」
「ん"っ」
きらきらと顔を輝かせていた。
この前振る舞った茄子料理がよっぽど気に入ったのだろう。
あまりのかわいさに心臓あたりがキュッとなった。
ふと視界に白が入った。
と思った瞬間にはもう目の前の琴平の横にいた。
「あ、五条先生」
「なんか面白そうなことしてると思って、来ちゃった」
「ひ、」
ひ?
ぴしりと固まった琴平を不思議に思っていると、続けて五条先生が話し出す。
「いいなぁ〜僕も悠二の手料理食べたいなぁ」
琴平が気になって先生どころじゃない。
大丈夫か、と声を掛けようとしたとき、先生がさきほど俺がやったように琴平の耳に顔を寄せた。
「揚げ茄子の、お、ひ、た、し」
ゆっくりとねぶるようにはっきりと。琴平の耳元で囁いた。
「ね、渚」
かくん、と立っていた琴平が腰から崩れた。
ぺしゃりと床に座っている。
「ちょ、大丈夫?」
琴平の両脇に力を入れて持ち上げようとすると、なんだか楽し気な五条先生がひょいと琴平を担いだ。
え、
「僕が運ぶよ。悠二は部屋に戻って」
「あ、はい」
え、
なに?
ちらりと見えた琴平の顔や耳が真っ赤になっていた。只事ではなさそうだが有無を言わせない先生に何もできなかった。
一人ぽつんと残された俺。
いつから五条先生は俺らのことを見ていたのか。
話の内容でさえ筒抜けだったのか。
琴平の耳元で囁く必要があったのか。
俺と先生とで琴平の反応が違うのは……。
深く考えたら怖い思いをする気がした俺は、考えるのをやめた。
← ∵ →