Buonasera! | ナノ


▼ 09

たくさんの歓声だけが頭に響く。
隣の人の声も遮ってしまうほどの声があたりを覆っている。
みんなの視線は常に中心へ注がれていた。


入学してから半月がたった。
もう既に新入生全員が能力、武器に開花していて、能力別授業なども予定通り行われている。
私も受けるべき能力別授業があるけど、能力が守備専門なため、やることはかなり限られている。

例えば技の練習をする人の的になる、とか。
私より相手の方が強くても関係なく能力は発動するから、どんなに巨大な技を私に向けてこようが、全てシールドによって私に届くことはない。

100%攻撃が当たらないとはいっても自分に向かってくる攻撃が怖くないわけがないので、私は必死に逃げます。
おかげで逃げ足だけは誰よりも速い自信があります。


「……って、解説してる場合じゃない!!」


今日は学校全体で何かをやるらしく、私は玲夢と待ち合わせをしていた。


「あ!!芹菜ーっ!!」


私の向かう先にはすでに玲夢がいた。
隣には柚子もいる。


「ごめん2人とも。ちょっと遅かったかな」

「いえ、大丈夫ですよ。まだ始まるには時間がありますから」


柚子はそういってふんわりと笑う。
あぁ癒されるこの笑顔!!


「でも急がないと席なくなっちゃうから早くいこっ!!」


玲夢の言葉に私たちはさっそくとある場所へと向かった。









「……え、ここ、……何?」


着いたのは校舎の裏側にある場所。
そういえば裏にはまだ一度も来たことがなかったけど……、まさか、


「……まさかこんな大きな建物があるなんて」


見た目でいうと、サッカーのスタジアムみたいだった。
客席はこの学校の全校生徒が入るであろうほどの数があるため、かなり広い。
だが客席の中央にあるのはサッカーのフィールドではなかった。


「……あれって、星屑石?」


フィールドの中央には人の身長くらいの高さの細い柱。
そしてその柱の上には星屑石が置いてあった。
とりあえず立ちっぱなしではしょうがないので、私たちは席へと移動した。
席に着いたとき、柚子が説明してくれる。


「あれが、この戦闘(コンバット)の優勝者に贈られるものです」

「……コンバット?」

「これから観戦する試合のことですよ。武器・能力の使用可能のもと試合が行われ、試合終了の時点であの星屑石を手にしている者が優勝となります」

「……星屑石壊れないの?」

「ふふ……、あれはそんなことでは壊れないので安心してください」


おかしそうに笑う柚子。
あ、あれ?
私もしかして馬鹿にされてる!?


「……で、でも物騒じゃない?武器も能力も使っていいなんて……危ないよね」


能力が開花する前に武器をたくさんみたけど、みんなそれぞれあれを持っているんだ。
警察が持ってる拳銃ですら私は見たことがないのに、武器を振り回してる姿なんて想像もつかない。
うーん、ちょっと怖い……かも。


「……芹菜さんは、とても優しい心をお持ちのようですね」

「…………へぇっ!?」


びっくりして変な声が出た。


「や、優しいの?これ……?」


おそるおそるの私の疑問に、柚子はにこりと微笑むだけだった。







さっきよりも凄まじい歓声が上がる。
改めてフィールドに目を向けると、選手たちが入場するところだった。


「………ん?」


その中に、見知った顔があった。


「え、……あれって、朔名と時雨、さん?」


黒を基調としたバトルスーツに着替えた2人の姿が私の目に映る。
えェェェあの2人選手なの!?
時雨さんはともかく、朔名からそんなこと聞いてない!!


「どうしたの芹菜?知り合いでもいた?」

「あ、うん……。私の兄と、その友達が……ッ、」


言いかけたところで私は言葉を切る。

……歓声が消えた。
さっきまであんなにうるさかったのに、誰の合図も無く、突然。
時が止まったかのように、気持ち悪いくらい静かだ。
選手が全員入場し終わったと思った矢先、その集団の後ろから一人。


……翔音様。

ただ歩いているだけなのに、そのオーラに圧倒される。
誰も寄せ付けない。
言葉を発するのも恐れ多い。
手を伸ばしても決して届くことがない、まるで高嶺の花。
そして、その恐ろしく整った顔は息を飲むほど。


翔音様の登場により一時場は静まり返ったが、コンバットの司会者の声によりさっきの歓声が再び戻る。


「……っ、はぁぁぁ……、やばい、息止めてた」


無意識だった。
私はやっと吸える酸素を目一杯取り込む。


「さすが翔音様だねっ、会場の視線全部集めちゃうし、そしてものすごーくイケメン!!」


玲夢はアイドルを見るような目で翔音様を見てるけど、翔音様を”イケメン”と呼べるのはある意味すごいと思う。
ただの言葉の違いだけど、私からしたら”お美しい”という表現しか出ない。


ピィィィィ

笛の音が鳴り響いた。
試合開始の合図だ。
その音とともに、柱の上に置いてあった星屑石が真上に飛び、柱は地面へと消えていく。
落ちてきた星屑石を男子生徒が奪い取る。
例えるならバスケのジャンプボールみたいなものだろうか。


とにかくとにかく歓声が凄い。
選手への応援、期待、ときたま罵声も聞こえるからちょっと怖いけど。
星屑石は同じ人の手にとどまることなく、頻繁に行き来している。
目で追うのは大変だけど、持っている人のところへ選手が群がるので、その点はあまり問題はなかった。

そういえば、朔名はどこだろう。
私がキョロキョロと探していると、玲夢に肩をポンとされる。


「どうしたの?」

「うん、朔名……あ、私の兄だけど、どこかなーって」

「朔名、さんっていうんだ。特徴は?」

「グラサン」

「え?」

「グラサン」

「……それだけ?」

「うん」


ごめんね朔名!!
私の朔名のイメージってグラサンしか残ってないのよね!!


「……サングラスというと、あの方ではないですか?」


柚子が指差したほうを見ると、見覚えのある顔。
あ、朔名見つけた!!

このフィールドは真っ平らなところばかりというわけではなく、ところどころに柱やブロックなどの障害物がある。
朔名がいるのはフィールドの中央らへんにある岩でできた柱のそば。
そして、その頭上には星屑石を持っているであろう男子生徒が空中に浮いていた。

と、飛べるんだあの人……!!

それぞれの生徒たちがその男子生徒に向かっているため、男子生徒は下手に動けずにいるみたいだ。
……その状況に、朔名が笑った。

朔名の武器はナイフだ。
ナイフをいくつか手に持つと、それらを投げ、斜線になるように岩の柱に突き刺す。
そしてそのナイフを足の踏み場にして、まるで階段を駆け上がるように男子生徒のもとへ向かっていった。

一番上のナイフまでたどり着くと、そこから勢いよく飛び上がり、男子生徒の頭上に迫る。
そして落ちる勢いを利用して男子生徒の背中に回し蹴りを決めた。
男子生徒が地面に叩きつけられる凄まじい音。
砕けた地面から立ち上る砂煙。

全てが、一瞬。







「……朔名さんすごいね」


玲夢の言葉に私はゆっくりと頷く。
うん……とても、すご……い。
だって……、


「……あんなに動いてるのに、グラサンが落ちないなんて……!!」

「そこォォォォッ!!??」


今までどこ見てたのーッ!?と玲夢に叫ばれるが、ごめん、グラサンばっかりみてた。

私たちがそんな会話をしている間に、朔名は地面に着地する。
そして、地面に伏した男子生徒から手放された星屑石のほうへ歩み寄る。


が。


「あら、ありがとう朔名。手間が省けたわ」


偶然なのか計算していたのかはわからないが、すぐそばにいた時雨さんが星屑石を手にしていた。


「は、はァァアア!?おいおい時雨さん、それ俺の手柄!!」

「だって私のところに転がり込んできたのよ?私のほうがいいのよ、この星屑石にとって」

「どんな理由!?つかソレ俺んだから!!返せよ!!」

「え?”返せ”?」

「……か、返して、クダサイ」


朔名弱ェェェ!!
めちゃくちゃビビリっぷりが出てるよ!!


「……はぁ……、なんて言い争ってる場合じゃなさそうね」

「……みたいだな」


2人とも急に真面目な顔になったと思ったら、背中合わせになりそれぞれ構える。
周りには2人を囲むようにして佇む選手たち。


「おーい、これは何だ、集団イジメってやつ?」

「朔名、やっぱり星屑石あげるわ。だから私の代わりに逝ってちょうだい」

「字が違うんですけどォォォォ!?」


時雨さんが放った星屑石を朔名が慌てて受け取ると、それを合図に選手が一斉に2人に襲いかかった。


「ちょ、俺のほうばっか来るんだけど!!」

「そりゃあ星屑石持ってるのは朔名だもの」

「その原因つくったのあんただろォォォォ!!」

「大丈夫よ。そこはちゃんと先輩として援護してあげるわ。先輩としてね」

「(今2度いった)」


自分に向かってくる人たちを見た朔名は、思いっきり地面を蹴り高くジャンプし、いくつものナイフを相手目掛けて投げる。
だが、相手の中にはさっきの男子生徒のように空を飛べる者もいるらしい。
ナイフは簡単に避けられた。


「お前っ、空飛べるとかずるくね!?」

「ずるくねぇよ!!人の能力に文句いうなよお前の特徴グラサンだけのくせに!!」

「何でどいつもこいつもグラサンの文句言うの!?俺の存在意義って何!?」


随分と幼稚な言い争いである。





「お喋りとか余裕だな、お前ら」


また別の人が朔名の背後をとった。
あ……ッ、さっきナイフ投げちゃったから今、朔名は丸腰だ……!!


「……ッのやろ!!」


もう一度朔名はナイフを取り出そうとしたが、既に戦闘態勢に入っている相手のほうがスピードが速い。


「残念だけど、遅いよ」


彼の武器である刀が朔名に振り下ろされた。





「弍之舞(にのまい)・水輪壁(すいりんへき)」







朔名を守るように、渦を巻いた水が刀を弾き返した。


「……サンキュー時雨さん、」

「ふふ、ちゃんと援護するって言ったでしょ?」


水を操っていたのは時雨さんだった。
その手には赤い扇子を持っている。
……あれが、水を操るための武器、なのかな?


「……あー、ビックリした、マジで斬られるかと思った」

「低レベルな言い争いしてるからよ」

「……俺心のほうがボロボロな気がする」


悲しそうに自分の胸を押さえる朔名。
確かにさっきから時雨さんの言葉の攻撃食らってるもんね。
全部クリティカルヒット。


「ところで朔名、星屑石は?」

「え?ちゃんと持って……あ?」


朔名はポケットに手を入れてみるが、お目当てのものが無かったらしい。
顔がサーっと青ざめていく。


カツン……

2人の後ろか靴音がしたと思い振り返ると、その人物は落ちていた星屑石を拾っていた。


「あら、翔音くんじゃない」

「………」


えェェェ時雨さんてば、翔音様を”くん付け”で呼んでるの!?
何という勇者!!

……そろそろ試合終了時間だ。
翔音様は、星屑石が欲しいのかな。


「……いらない」


あろうことか、翔音様は星屑石をポイっと後ろに放り投げた。
そしてそれはたまたま後ろにいた男子生徒の手の中へ。


「…………、え?」


その生徒も何が何だかわかっていないみたいだ。



ピィィィィィ

試合終了の笛が静かに鳴り響いた。







「朔名、お疲れ様」

「おー、芹菜。見てたのか」

「うん、同じクラスの玲夢って子に誘われてね」

「お、俺の素晴らしい回し蹴りとか見てた!?」

「見てたよ、あんだけ動いてるのにグラサン落ちないなんて感動した!!」

「……泣いていい?」



わっと手で顔を抑えるけど、大の男がそんなことしても痛いだけだよ。


「でも惜しかったねー、あともう少しで星屑石ゲットできたのに」

「っとだよォ、これじゃあいつまでたっても三ツ星になれねーじゃん俺」

「そういえば私この前星屑石みつけたんだ」

「へー、そうなん…………ぅえェェェェ!!??」

「ちょ、朔名うっさい!!」

「え、な、何、どこで?何で!?」


私は星屑石を手に入れた経緯や自分の能力のことを話した。


「えェェ何その能力、無敵じゃねーか。怖いもの無しじゃん羨ましい」

「そ、そうなのかな?でも自分を鍛えない限り一切攻撃はできないから不便かもよ?」

「なら俺が教えてやろーか?基本くらいだったら覚えといて損はねーと思うけど」

「え、いや……うん、考えておく」


まだ私に体術を教わる覚悟はない。
今は別に不便もないから、必要になったときにでも教わろうかなと思う。







「……そういえばさ、コンバットに翔音様も参加してたけど一度も戦ってなかったよね?」


戦うどころか、目立った行動すらしてないから正直最後に現れるまで忘れてたくらい。


「まあ出場する選手はランダムだからな。予め申し込んどけば参加できるみたいだけど」

「……めんどくさいのかな」

「……さぁな。あいつに勝てる奴なんてこの学園にいないから、そもそも興味がないんじゃねーの?」


それはみんなからも聞いた。
力が桁外れらしいね。


「だからみんな”様付け”で呼んでるの?」

「あー、かなー……。お前も様付けで呼んでるよな?」

「うん。みんなそう呼んでるし、なんかそっちの方が合ってるような気がしてさ」


男女関係なく誰もが見惚れるほどの美しい容姿。
開花した氷の能力は誰にも劣らない圧倒的な力。
”孤高”という言葉が似合っているような近寄りがたい雰囲気、気品、威圧感、憧れ、崇拝。


「……王様みたいだ」


手を伸ばすなんておこがましい。
届くはずがない存在。


「まあ、芹菜と同い年なんだから、好きに呼んでいいんじゃねーの」

「うん…………、ん!?同い年!?」

「あ、知らなかった?あいつも18歳だよ」


な、なんだって……!!
あの雰囲気からして年上かと思ってた。
まあ確かによく見れば童顔ぽいのかも……?


「時雨さん、”くん付け”で呼んでたよね」

「そうだな。時雨さん、そういうのあんま気にしない人だからなぁ。芹菜も”くん付け”で呼んでみたらどーだ?」

「朔名は私に消えて欲しいの!?」

「そこまで言う!?」


呼んでみたいけど、かなり勇気がいるかもね。


そろそろ教室に戻らなきゃいけないため、私は朔名に背を向けた。



「あ、そうだ」

「え、何?」

「、次は頑張ってね」

「……おう!!」




09.はじめまして知らない人

本当は、ちゃんと見てたよ。
不利な状況でも笑ってそれらを回避するところも。
全部、全部、見てたよ。
17年間知らなかった姿が、18年目の日、やっと見れた。
はじめまして、私は貴方の妹だよ。
今日からよろしくね。


prev / next

[ back to top ]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -