Buonasera! | ナノ


▼ 04

「………」



今、私の身に何が起こったのだろうか。



地面にへたり込んでいる私はおそるおそる顔を上げた。




目に入ったのは、私を驚いた表情で見る翔音様と、表情はわからないが同じくこちらを見ているあの銀髪の仮面の人。




辺りをよく見ると、私の半径1mを除いて全てが凍りついていた。


地面も、植物も、何もかも。





「……え?……何、どういう、こと?」




何で周りが凍ってるの?


何で私の周りだけ何でもないの?


何で私を驚いた顔で見るの?





意味がわからない。
















目覚ましの音で起こされ、ゆっくりと起き上がる。


……頭が重い。


熱っぽいなと思いながら額に手を当てると、普段よりも熱い感じがした。



新しい環境になったことで体が着いていかなかったのかもしれない。



けどそこまで酷くはないので、いつも通り制服に着替えて教室へと向かった。






「あ、おっはよー芹菜!!」

「おはよう玲夢」

「おはようございます芹菜さん」

「……え?」



聞きなれない声がしたと思い、玲夢から視線をずらすと、私より低い位置にある目と視線が重なった。



「初めまして、私は北条柚子と申します。柚子と呼んでください、よろしくお願いしますね」

「あ、わ、私は藍咲芹菜です。こちらこそよろしく」



そういうと、柚子……、は、ふんわりと笑った。


えええ何この子の笑顔!?

天使だ、リアル天使がいる!!





「そういえば芹菜聞いた?今日の授業、体力づくりだって」

「……なんだって?」




体力づくり?



体育でもやるんですか。




「何、まさか走るとか言わないよね?」

「そのまさか」

「まじでか」

「うん」

「ごめん私休むわ、朝から頭痛が」

「はいはい、あたしだって嫌だけど行くんだから芹菜もいくよー」

「待って待って頭痛は嘘じゃないィィィ」






「……これは……いわゆるバトルスーツってやつなのか?」



制服と同様、黒を基調とし、白や赤のラインが入っている。

上は体にフィットする形になっており、私の場合、下はショーパンにタイツに、銀の装飾がついたパンプス。



そして、




「え……これもなの?」


私のために用意されていたのは髪を縛るためのゴム。

これにも銀の装飾がある。




「……なんでたかが体力づくりの授業のために髪留めまで指定されなきゃならないのさ……」




そう呟きながらも今結んでいる髪をおろし、新しい髪留めで結っていく。




「……っ、ん……?」



結い終わった瞬間、体がズシッと重くなった気がした。


まるで頭に重りをのせられたような。



けどそれは一瞬のことであり、なんでもなかったことのように普通に戻っていく。



……なんだったんだろう、今の。











集合場所は校舎の奥にあるあの森。


すでにたくさんの生徒が集まっていた。

その中に玲夢と柚子を見つけた。


玲夢は細身のパンツスーツっぽい服装で、柚子はレースがあしらわれたミニスカート。


人によって微妙に違いがあるんだ……。






しばらくして集合時間になった。


だが先生らしき人影は現れない。



他の生徒たちも疑問に思ったのか、まわりをキョロキョロしはじめる。





「先生来ないね、どうしたんだろう……」

「寝坊とか?」

「サボりじゃないですか?」



さすがにそれはないと思うけど。




そう思っていたとき、




コツン、



「痛っ、え、何?」




頭に何か尖ったものが軽く刺さった。



地面に落ちたソレを拾ってみると、一枚の紙。


これの角が刺さったのか。





二つ折りになっている紙を広げてみると文字が書いてあった。





《やぁ諸君、全員集まったかな?


これから君達には目の前にある森の中を走って体力をつけてもらう。

看板などでコース指示をしてあるので迷う心配はないから安心してくれたまえ。


今回の授業で見事20位以内に入ったものには、一ツ星ランクの地位を。

最下位の者には罰を与えることとする。


最後にいっておくが、普通の学校でやる体力テストと同じと思ってもらっては困る。


各自気を引き締めて挑むように。






P.S.

と、いうことで、この授業では武器や能力を使って相手を妨害してOKだ。

ただし命を奪うようなことがあれば、それなりの刑を受けてもらう。


それでは健闘を祈る(=゚ω゚)ノ》








顔文字うぜェェェェ!!!!




っていうか待って!?


武器・能力OKって……、私思いっきり丸腰なんですけどォォォォ!?


死ぬんじゃね?

私ちょっとでも攻撃食らったら逝っちゃうんじゃね?





突然、パァァァンという銃声が響いた。


恐らくスタートの合図だ。



とりあえずビリにだけはなりたくない。

みんなが走り出すと同時に私も森へと駆けた。









森を走っていると、あちこちで金属同士がぶつかり合う音や、爆発音などが聞こえてくる。


実際、離れてはいるが私の前を走っている生徒も能力を使って相手を妨害している。


けど、能力や武器が使えるようになったといっても、私たちは新入生である。




だからさ、私のほうにもとばっちりがくるんだよね!!


勘弁してほしいな、避けるのに命がけだよほんと!!



こんなことなら玲夢たちと一緒に走ればよかったかな。


少なくとも玲夢は武器を持ってるわけだから、丸腰の私よりは有利だ。


そういえば柚子のほうはまだ「ちょ、お前そこ早く逃げろ!!!!」




私の思考を遮って聞こえたのは切迫詰まった誰かの声。


えっ、と思って振り向くと、誰かの能力であろう白に輝く大きな球体が目の前に迫っていた。




咄嗟に腕でガードしようとするが既に遅し。




「ッぅあああぁぁ!!」



直接私には当たらなかったが、その球体が地面にぶつかった時の衝撃で、私の身体は簡単に吹っ飛ばされた。












「…………柚子、芹菜遅いよね、?」



持久走の授業が始まってから既に4時間が経過し、あたりは暗くなりはじめている。



あの森は確かにすごく広いけど、コース指示はしてあるし、新入生にそこまで過酷な授業をさせるはずはない。


今回の授業に出ていた生徒は全員クラスに戻っているはずだ。


にもかかわらず。




「そうですね……。芹菜さんはまだ開花していらっしゃらないみたいでしたけど、同じ境遇の方もちゃんとここに戻ってますし……」

「……どうしよう、やっぱり一緒に走ればよかったんだ……!!」

「……とにかく、今はこのことを先生に伝えましょう。私たちだけでいくよりはるかに安心です」

「、うん……そうだね」














「……、ぅ……ん……?」





ゆっくりと目をあけると既に暗くなった空が木の隙間から見えた。



あれ、もう夜……?


私どのくらい寝てた……?





「……っつぅ……!!」



またゆっくりと起き上がると同時に足に鋭い痛みが走った。



あ……左足から血が出てる……。


吹き飛ばされたときどっかに引っ掛けたのかもしれない。




手当てをしたいところだけど、生憎今は何も持っていない。



うーん、血を垂れ流したままは気持ち悪いけどこの際仕方ないか。




私は左足にあまり体重をかけないようにして歩き出した。


とにかく早く校舎にもどらなきゃ。


この分じゃ私ビリだな、これ。



罰ってなんだろう。



退学、とかはないよね?

それだったら泣くわ。










しばらく歩いているが、一向に森から出ることができない。


というか同じところぐるぐる回ってないこれ?


嘘やん、迷った?




そしてもっと最悪なことに、今の私は体調がよろしくない。


朝頭痛かったし、今血を流したままだから余計に熱が上がったのかも。




けどここでまた倒れても誰も来ないだろう。


私は荒い息を振り払いながら前に進んだ。





少し歩いていくと、見覚えのある場所を見つけた。




……あれって確か前に朔名たちが授業やってた広場だ。



なんとなくそこに向かって足を進める。


あそこは一度行ったことあるから、あそこからなら帰り道思い出せるかも。



そう思うと少しばかり足取りも軽くなった。





そして、やっと広場に着いたと思って改めてそこに目を向けると、こちらに向かってくるいくつもの氷の柱とキラキラ光る冷気が迫っていた。




「……っ、!!??」



驚いて叫び声もでない。


また咄嗟に腕を前に出す。



ああ、デジャヴだ。






しばらくしても、来るはずの衝撃がなかったことに疑問を持ち、私は恐る恐る目をあけた。





「……え?……何、どういう、こと?」




さっきとは明らかに違うところ、それは私のまわりが完全に凍りついているということ。


その氷はそこにあるもの全て……、木も草も地面をも凍らせていた。



……私のいる場所を除いて。





……どういうこと?

何で私のいる場所だけ……。





「……それがお前の能力か」

「!?」




突然声がしたと思い顔を上げると、くちばし付きの仮面の人が顔だけこっちを向いていた。

そしてその人と対峙するかのように立っている翔音様もいた。





「開花したばかりで翔音の攻撃を防ぐとはな」

「……え?」




翔音様の攻撃?


あ、さっきの氷の柱のことかな。


……防ぐって何、それに、私の能力って……。




頭がぐるぐるして訳がわからなくなった。


混乱しているのと同時に、さっきよりも頭痛が悪化していた。


まるで鈍器で殴られているような感覚だ。


熱、上がったの……か、な……。



そこで私の思考は停止し、地面へと倒れこんだ。






「……さすがに初めてでここまで使ったら体力は持たない、か」



戦闘体制だった仮面の男は体制をもとに戻し、芹菜を見下ろした。



「……今日はもういい。なかなか面白いものが見れた。お前も戻れ」

「……命令するな」

「私も戻る。その前にこの女を連れて行く必要があるが」

「アンタが運べばいい」

「興味ないか?自分の攻撃を防いだ女に」



翔音は答えない。


仮面の男はフッと口元を緩めると、芹菜を横抱きにしてその場を去った。













「………ん、」



フッと目をあけると、真っ白な天井がみえた。



あれ……ここは……。


あ、そっか、私……気を失って……ってか今日気絶してばっかりだ。



けど、頭の痛みはなくなっていた。

重くもないし、熱下がったのかな。





体を起こすのと同時に、ベッドを囲んでいるカーテンがシャッとあいた。




「………」

「………」




え、何でいるの?



「……起きたか」

「あ、はい……。あの、ここは……」

「医務室だ」

「……そう、ですか」



この人は何でこう、単語でしか答えないんでしょうかね。


空気の入れ替えしよう、ある意味酸素が足りない。




「……水を持ってきた。飲め」



強制かよ。



けど実際喉が渇いているのでありがたくもらうことにした。


コップを受け取ったと同時に気づいたこと。



あれ……、これ、私が着てるのってよく患者さんが着ている病衣じゃ……。




「あの、私の服……」

「服ならソファに置いてある」

「……な、何故です?」

「熱で汗をかいたままの服を着続けたいのか?」

「…………ちなみにこれを着せてくれたのは?」

「私だが?」

「医務室の先生は」

「出張だ」





どうしよう、今すぐここから消え去りたい!!




「安心しろ。お前相手に妙な気など起きない」




ぶん殴っていいですかァァァ!?



そんな気を起こされても困るけど、もっと他に言い方ないのかよコノヤロウ!!






「……お前は自分の能力に気づいているのか?」

「……え、?いや、私はまだ能力なんて……」

「……本当にそう思うのか」




仮面の人がそう呟いた瞬間、私に向かって銀色に輝く何かを放ってきた。



「……っな……ッ!?」



咄嗟に腕を顔の前にだして目を瞑った。



だが、衝撃はない。





「……あれ?」



目をあけてみても、どこにも異常はない。



……もしかして、私の能力って、







「攻撃を無効化できる……?」

「違う」



違うのかよ!!


今いい感じでやっと気づいた!?みたいな雰囲気だっただろ!!


そんな一刀両断しなくてもいいじゃん!!




「自分を中心としたサークルを張り、外からの攻撃を防ぐ。……そのように見えたが」

「……バリアー、的な?」

「おそらくな」





え、何……それ、









「……すっ、げェェェェェ!!私全部の攻撃とか防げちゃうの!?え、めっちゃすごいじゃん!!怖いもの無しじゃん!!」



テンションが上がった。


ずっと平凡な私だったけど、まさかのここで戦えないけど最強フラグきた!?


やばいよ、後で玲夢とか朔名に言おっかなー!!





「……医務室で叫ぶな。お前は仮にも病人だろう」

「え?病人?」




あ、そういえば今日朝熱っぽかったし、倒れる前なんて頭痛酷かったけど……。


それに、いつの間にか足の怪我も痛くない。






「……今は何ともないですよ?」



ケロリとしてそう答えると、仮面の人は考えるような素振りをして黙ってしまった。



あれ、何かマズイこといったかな。






「……ならもうここにいる必要はないな」

「え?あ、そうですね」

「ではこれから資料室に来てもらおうか」





……資料室?

なんで?




私が不思議そうな顔をしたからなのか、仮面の人は続けた。




「さっきの授業担当の教師に頼まれた。最後になった生徒は罰があるのだろう?それに、お前に関してはゴールすらしていない」





しまったァァァァァ!!


そうだったすっかり忘れてた!!




「罰として資料整理の仕事をしてもらう」



うわ、めんどくさいやつ来た。





「……それって私一人でやるんですか……?」

「ああ。私も同じ教室にいるが、手伝いはしない」

「……さようでございますか」



荷が重い。





「制服に着替えたら来い。私は先に行っている」



そういうとスタスタと歩いて医務室のドアへと向かう。





「あ、あの!!」

「……何だ」

「えと、先生の名前って何ですか?……呼ぶとき困るんで」






「……終夜(よすがら)だ」




よ、すがら……珍しい名前……。



というかどんな字書くんだ。





「早く着替えろ、就寝時間削ることになるぞ」

「え」




うっそ、今から!?

もう夜なのに!?




ガラッとドアを開けて出て行った仮面……終夜先生。




急いで着替え資料室へと向かった。





仕事内容はそんなに難しくなかったけど、何分量が多かったために当然のごとく就寝時間が削られた。



自分の部屋に戻ってこれたのは夜中の1時頃。


ささっとシャワーを浴びたあとは、ベッドにダイブして泥のように寝たのだった。




あの人容赦ない。




04.目覚めたもの

さようなら、平凡


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