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日常09の裏話




「翔音くんの髪ってさらさらだよねー」

「え、何だよいきなり」



買い物から帰った土曜の夜、3人で夕飯を済ませたあとのこと。
ふいに思い出したことを口にだせば朔名は少し驚いたような表情をみせた。


「今日出かける前にドライヤーしてあげたときにそう思ってさ」


私はソファーの隣に座っている朔名と翔音くんをみた。


ちょうど翔音くんがお風呂から出たところで、彼は今ソファーに座っている朔名の前の床に胡座をかいてドライヤーで髪を乾かしてもらっている。



「あぁ確かにこれはさらさらだな。滑るように指が通るよ」


手櫛でとかしながらそういう朔名。
髪もだいぶ乾いてきたみたい。

ドライヤーの風が気持ちいいのか、翔音くんの目は閉じかけていた。



「何か手入れでもしてるの?」

「………………してない」


翔音くんは眠そうにそう答えた。
まぁそんなことするようには見えないけど。





「でも懐かしいなぁ」

「何が?」


翔音くんの髪をとかしながら優しそうな顔をする朔名に私は首を傾げる。




「芹菜が小さい頃はいっつも俺が芹菜の髪乾かしたりしてたんだよ」

「え、そうだっけ」

「まぁ俺が小学生んときだから芹菜が覚えてねーのも仕方ねーけどな」



そんなに昔のことか。
全く覚えてないなぁ……。




「あんときも今翔音にしてるみたいに芹菜の髪乾かしてあげてたんだけどさ、どうもこのドライヤーの風が嫌いっぽくて」

「……なんで?」

「……匂いが嫌いっつってたな、確か」


まぁ確かにあんまりいい匂いとはいえない感じはするよね。
子供ってそういうの敏感だし。



「そしたら俺が持ってたドライヤー奪い取って俺の顔面に“くらえええええ”っていいながら熱風向けてきやがったんだ」

「いじめられてんじゃん私に」

「そんときはまだ俺サングラスかけてなかったから、目に風が直撃してすげぇドライアイになってさ」

「小学生でサングラスかけてる奴いねーよ」






「とまぁこんな感じだったんだよ、昔の芹菜は」



丸くおさめようとしてるけど、おかしいとこ満載だったからね。



「もう俺に乾かしてもらわねーんだろ?」

「あったり前じゃん、私はもうすぐ18歳なんだからね」

「翔音も18歳だけど」

「……それは、ほら。ドライヤーの使い方わかんない、みたいな」

「照れんなよ、また俺が「あ、ちょうどいいや。ここに割りがいのあるサングラスが」すいませんでした!!」












「あれ、翔音くん寝ちゃった?」

「……そうみたいだな」



私達がうるさくしていながらも朔名の足元で胡座をかきながら寝ていた。



「こうやって寝てれば可愛いんだけどなぁ」

「今日の買い物で疲れたんじゃねーの?」

「……そういえば普段より楽しそうにしてたかな」


無表情なのは変わらなかったけど。


「起こすのかわいそうだからしばらくこのまま寝かせとくか」

「そうだね」



朔名が翔音くんの乾ききった頭をくしゃっと撫でると、前髪で隠れていた顔があらわれた。




その表情はあの無愛想で無表情な顔とは程遠い、とても穏やかな顔だった。





おやすみ、翔音くん。



ふと懐かしむ

(うわー、やわらけー顔)
(何してんの)
(いや、だってよみてこれ。肌すべすべだし柔らかいし羨ましい!!)
(そりゃあオッサンと違って若いですから)
(オッサンって何。俺まだ23歳なんだけど)


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