01


「とりっくおあとりーと!!」

「…………」

「ちょ、今一瞬こっち見たのに無視ですか翔音くん!?」

「……何がしたいのかわからない」

「えっ、ハロウィン知らない?」

「……知らない」

「10月31日はハロウィンっていってね、子供達が仮装して、いろんな家にいってお菓子とかもらえるんだよ」



そういった瞬間、僅かではあるが翔音くんが反応した。

……お菓子という言葉に。



「じゃあ翔音くんには初のハロウィンってことで私からこれプレゼントー!!」


渡したのは綺麗にラッピングされたクッキー。

……買ったものですけど何か?



「……ありがとう」

「どーいたしまして!!……んで、私のぶんのお菓子はもってる?」

「……?」

「さっき私、”とりっくおあとりーと”っていったよね?あれ、ハロウィンのときにいう言葉なんだけど、”お菓子くれなきゃイタズラするよ”って意味なんだ」

「……俺今何も持ってない」

「ですよね。まあ初めてだから今回は許そう!!……じゃあそろそろ学校いこうか」



登校途中、翔音くんにいくつか飴玉を渡しておいた。

きっと学校では誰かしらから(主に女の子)お菓子もらいそうだから、何も返さないよりは飴玉くらい、と思って。

そう考えると、ハロウィンよりもっと盛り上がるバレンタインとかは大変になるんじゃないかな。

翔音くん、ファイト。










「おっはよー芹菜!!」

「おはようございます、芹菜さん」

「おはよう玲夢、柚子、とりっくおあとりーと」

「「…………」」

「え、何で黙るの」

「……あ、そっか、今日ハロウィンなんだね」

「えぇっ!?気づいてなかったの!?」

「うーん、やっぱりお正月とかバレンタインとかと比べるとねー。でもお菓子もらえるのは嬉しいけど!!」



玲夢も翔音くんと思考が一緒だ。




「俺には!?俺には菓子ねーの!?」

「あ、おはよー橘くん。はいどーぞ」


橘くんにも同じものを手渡す。


「さーんきゅ!!いつもと同じで悪ィけどその分多くあげるから勘弁な!!」


そういって私の両手に渡された数個の飴玉。
……いつも持ってるよね、飴おいしいから好きだけど。

そして玲夢からはガム、柚子からはマドレーヌをもらった。

え、何でマドレーヌ持ってるの?って聞いたら、昨日偶然にもお菓子を作っていたらしい。
手作りか、さすがです。






昼休み、先生に呼び出されて私は体育館の裏に来ていた。
うちのクラスの美化委員の子が休みで、花壇に水をやる人がいないから代わりにやってくれとのこと。

ちくしょうせっかくの昼休み潰された。


文句をいいつつも水をあげていると、私以外の影が増えていることに気づいた。
何だ、と思って振り返ってみる。


「芹菜チャン、Trick and Treat」

「あ、新井くん?」


な、何でここに新井くんが……。
え、ていうか、


「あ、あんど……?”おあ”じゃなくて?」

「相変わらずひらがな英語だね」

「だまらっしゃい」

「……それで、お菓子は持ってる?」

「あー、うん。教室にクッキーあるけど今は……、あ、飴玉なら持ってるよ」


朝翔音くんに渡したときに自分も余分に持っていたやつを新井くんに手渡す。


「ありがとう。じゃあイタズラは何がいい?」

「……え?今飴玉あげたじゃん」

「俺は”Trick or Treat”なんていってないよ」

「……”あんど”っていってたね」

「うん、”お菓子くれたらイタズラするね”ってことだよ」

「お菓子返せ!!」


何でこう捻くれてるの!?
普通にとりっくおあとりーとでいいじゃん。


「で、イタズラ何がいい?」

「拒否権は」

「あると思う?」

「………」


ニコニコした顔がとても腹立たしい!!



「どういう系がいいの?」

「……どういう系とはなんでしょう」

「んー、例えば芹菜チャンの教科書全部隠しちゃうとか」

「それイタズラっていうよりイジメじゃない!?」

「芹菜チャンの部屋の窓に赤い手形いっぱいつけるとか」

「怖ッ!!」

「あ、テストの点数を全校放送で公表するとかもあるよ」

「新井くんのイタズラのレベル高すぎないか!?私からしたらただの悪質なイジメになるわ!!」

「俺はね、4番目がオススメかな」

「4番目どこ!?3つしか話してないじゃん、つかまだあるの!?」


どんだけイタズラしたいんだあんたは!!


「4番目はね……、」



急に声のトーンが低くなった。
え、何この空気。




「ちょうどここ、誰もいないし」



新井くんの細長くて綺麗な指が私の頬をなぞっていき、顎に指をかけられる。




「このままキスする、とか」

「……ッ!?」



顎にかけた指で唇をなぞりながら、耳元で甘く囁かれる。


「芹菜チャンからしたら、これが一番のイタズラになるかな?」

「なッ……、ばっ……、」



恥ずかしくてうまく口がまわってくれない。


「俺がもし今ドラキュラの仮装とかしてたら、此処……噛んじゃうんだけどなぁ」


そういって指で私の首筋をつつーっとなぞる。


「ひぅ……ッ!?」

「クス……、ごめんね、指冷たかったかな?」

「〜〜〜〜ッ!!」


確かに指は冷たかった。
けど、それ以上に”触れた”ということに反応してしまった。
新井くんはそのことに気づいてる。

でもあえて”指が冷たいから”と嘘のことをいって、それを否定させて、私に”触れた”という理由で反応したことを認めさせようとする。

なんて捻くれた奴なの……!!



「芹菜チャン」

「……な、に……?」

「……噛んでもいいよね」


自分の頬に新井くんの髪がかかり、気づくと首筋に顔を埋められていた。


「なっ、……ゃ、やめ……ッ!!」











「はい、終了ー」

「…………へっ!?」


パッと離され、私は目が点になる。


「俺からのイタズラ、どうだった?」


すごーく楽しそうないい笑顔で聞いてくる。
む、むかつくううううう!!


「心臓に悪いわこのド変態!!」

「俺の行動に反応してた芹菜チャンが何をいうのかなー?」

「……ッ!!」


あれはどうみても不可抗力でしょ!?
いきなりあんなことされたら誰だってびっくりするわ!!


「じゃあ俺はそろそろ教室もどろうかな」

「そうだ、帰れ帰れ!!」

「クス……、酷いなー」


新井くんはそのまま去ろうと一歩踏み出したが、あっと言ってこちらを振り返る。


「顔真っ赤になって反応してる芹菜チャン、なかなか可愛かったよ」

「……ッッもうどっかいけえええええッ!!!!」






「はぁ……、なんか、すごく疲れた……」


新井くんが去ったあと、しばらくぼけっとして、途中だった水やりを終わらせて私は屋上へと向かった。
顔が熱いから少しでも冷まそうと思って。

ガチャッと屋上のドアを開ける。
秋らしい少し冷たい風が今の私にはちょうどよかった。

屋上にでてみると、どうやら先客がいるみたい。

あ……。


「桐原くん」

「……こんにちは、芹菜先輩」

「こんにちは、一人なの?さみしくない?」

「自分だって一人じゃないですか……”今は”」


今はの言い方に妙にひっかかりを覚えた。


「俺は昼休みずっとここにいたんですけど、見えたんですよね」

「……何が?」

「体育館裏にいる芹菜先輩が」

「……!?」


え、待って……、じゃあさっきの状況……!!


「全部見ちゃいました」

「いやあああああああ!!??」


不覚だああああなんてことなんだあんな恥ずかしいところ見られたなんて!!


「真っ昼間からあんな場所で何するのかと思いましたよ」

「っ、見てたんなら助けてよ!?もんのすごい恥ずかしかったんだから!!」

「芹菜先輩に手を出すなって言うんですか?何でそんな彼氏みたいなことして身を滅ぼさなきゃいけないんですか」

「そんなに私の彼氏になるのは嫌か!!」


酷い!!
今私の心は新井くんのせいでズタボロなのに!!


「ちくしょう桐原くんは私の後輩なのに裏切り者だ、このツンデレボーイめ」

「芹菜先輩、Trick yet Treat」

「……え?いぇっと……?」


何だよ新井くんといい桐原くんまで、普通のとりっくおあとりーとじゃないのか。

するとどこから取り出したのか、いつの間にか桐原くんの手にあるサッカーボール。
え。



「き、桐原くん?それは、どういう意味なんですかね……?」

「先輩面してるくせにこんな簡単な英語もわからないんですね。小学生からやり直した方がいいんじゃないですか?」

「実際先輩なのに!!」

「……ならお望み通り教えてあげますよ」

「え、ま、待って、そのサッカーボールで何する気デスカ」

「そんなこと気にしないでいいですよ」


とてもいい笑顔で歩み寄ってくる。
でも背後にはドス黒いオーラ。
普段あんまり笑わないけど、桐原くん綺麗な顔してるから、少しドキッとするけど、今は違う意味でドキッとしてる。



「気にするに決まってるでしょ何その笑顔!?」

「意味知りたいっていったのは芹菜先輩の方ですよ?」

「い、いや、やっぱりさっきの訂正、」

「駄目です。直接その身体に教えてあげますよ、嫌っていうくらいにな」

「ええっ、まっ、っぎゃあああああああ!!!!」



言葉だけ聞くとなんかちょっとエロい感じに聞こえるけど、全くそんなことないから。

Trick yet Treat=お菓子いいからイタズラさせろって意味だそうです。


桐原くんからのイタズラが終わったときの私の感想。
”サッカーボール怖い”






「……た、ただいま……」

「……おかえり」


リビングにいくとソファに座っていた翔音くんが振り返る。
今日はあのあとまた先生に呼ばれて本や資料を運ぶ手伝いをしていたので、翔音くんとは別々に帰ったのだ。


「……何でそんなに疲れてるの」

「……うん?……うん、まあ……いろいろ、精神的に……」


鞄をおいて、私もソファにどさっと座った。
ふと机を見ると、その上には可愛らしい紙袋の山、山、山。


「……え、どうしたのこれ」

「……学校のみんなにもらった」

「……”みんな”!?」


全校生徒かよ、さすがだ。


「……芹菜、これあげる」

「?」


渡されたのはこれまた綺麗にラッピングしてあるお菓子。


「……さっき、買った。朝お菓子貰ったからそのお返し」

「あ、ありがとう!!へー、すごい、いろいろ入ってる……。私が渡したやつより上等だし、お返しっていうかそれ以上になるね」

「……?対等じゃなきゃダメなの?」

「え?いや、私もそこまではわかんないけど……」

「……じゃあ多くあげた分、イタズラしていい?」

「……えッ!?」



イタズラという言葉に私はビクッとした。
だって今日はそれで2度も不幸なめにあったんだから。
まあでも翔音くんは多分あんなことはしないだろう。


「……た、例えば?」

「……でこぴんとか」

「………」

「宿題教えてあげないとか」


イタズラの内容が可愛い。
そうだよね、普通これぐらいのがイタズラっていうもんだよね!!
翔音くんの場合、これはイタズラというよりは意地悪に近いかもしれないけど。

でもよかった、やっぱり翔音くんは普通だった!!








「あ、あと、」

「え?」

「……首筋に噛み付くとか」

「なァッ!?」



えええ、こいつもかよ!!??
というか、なんで!?
ハロウィンってそういうイベントじゃないでしょうよ!!


「……って、えっ!?」


いつの間にかソファの角に追いやられてしまった私。
目の前には翔音くん。
何この状況、壁ドンならぬ、ソファドン的な?

いやあああ何ひらめいちゃってるんだ私!!
ふざけてる場合じゃない!!


「ね、ねぇマズイって!!イタズラならでこぴんでいいから、ねっ!?」

「噛み付くの、ダメ?」

「OKするの前提に行動するのやめようよ!!私を何だと思ってるの!?」

「……でも、光がイタズラするならこれのほうがいいって」


あいつの仕業かああああ!!
翔音くんに要らん知識与えやがって!!
ホイホイこんなことする人に育っちゃったらどうするんだ!!







「……ふぁ……ッ!?」


肩を掴まれたと思ったら、そのまま首筋に顔を埋められる。
ああああデジャヴデジャヴ!!



「……ねぇ、噛んでいい?」

「や、……ぁ、ダメ……ッ!!」



そのままの状態で話すから首に息がかかってくすぐったい感じがする。

翔音くん的にはこの行動がどういうことなのか、理解しきれてないと思う。
だからこそこれはマズイ!!
でも後ろはソファだし、肩掴まれてるし逃げられない。

ど、どうしよう!!
……どうし……、







「ただいまー、芹菜、翔音、お菓子買ってき………あ?」

「あ」







「……な、何してんだお前らあああ!?」


朔名が思いっきり叫んだ。
救世主が現れたのは嬉しいけど、めんどくさいやつに見つかった!!






「……なるほど、それであんな状況になった、と?」


あの後、叫んだ朔名をなんとか沈めて私は今までの経緯を事細かく説明した。


「けど、イタズラの内容がそっちにいくって、その新井くんとやら、すごいな」


すごいって何だ、どういう意味のすごいなんだ。



「まぁお前らも高校生だし、そういうのに興味あるのもわからなくはないけど、誰にでも見境なくやっちゃ駄目だからな、翔音。もしやるなら芹菜だけにしなさい、これお兄ちゃん命令」

「ふざけんな万年発情期、沼に沈めよ」

「女の子なのになんでそんなドスのきいた声出せんの!?」


そもそも今回の出来事を禁止するっていう選択肢がないってこと自体おかしいでしょ、何を考えてるのこのグラサンめ。


翔音くんも翔音くんで頷いてるし。
きょとんとしながら頷いてるあたり、絶対わかってないと思う。
今回のこととかそういう感情とか状況についても知識として教えた方がいいのかな?

そのほうがこれから間違いとかなくなると思うけど、私の口からいうのはなんとも……。


……あ、でももうすでに新井くんに教えられたとかいってたよね。
どこまで聞いたのか知らないけどとにかく明日新井くんに会ったら一発殴ろう、そうしよう。




「よし、とりあえずこの話はこれで終わり!!」


……いいのか?
こんな簡単に済ませちゃって。


「ほい、これ俺からのハロウィンのお菓子な。今日時雨さんたちから貰ったんだ。ハロウィン限定のケーキとかもある」

「まじでか!!」


ハロウィン限定のケーキ!!
かぼちゃとかかぼちゃとかかぼちゃとか!!

ハロウィンはお菓子もらえるし、売ってるお菓子もケーキもみんな美味しいからこのイベントはとてもありがたい。


翔音くんをみると、彼も目をキラキラと輝かせている。(わかる人にしかわからない)
こういう顔はすごく子供らしくて可愛いんだけどなー……。



「……んあ?どうした芹菜、顔赤くね?」

「えっ」



いけないいけない。
さっきのソファのときの翔音くんの艶っぽい(?)表情と、今の子供らしい表情があまりにもギャップがあって、思い出してしまった。



「……ははーん、さては芹菜、さっきの翔音のこと思い出してちょっと期待してふげふぅぁあッ!?」

「お前と一緒にするなよ!!」



私の鞄が朔名の顔面にクリーンヒット。



「グラサン割れた?ねぇ割れた?」

「な、なん……で、そんな、楽しそう……なんだ……ッ」

「私もうお菓子もってないから、今のがお菓子ってことで」

「いや無理だから!!お菓子っつーか食い物ですらねーよ!?」



朔名のことはとりあえず置いておいて(酷い)、私はちらりと翔音くんをみた。



「………(もぐもぐ)」


食ってるし!!
食べているのは多分、色からしてかぼちゃのタルト、かな。



「……おいしい?」


翔音くんは私をちらっと見たが、まるで何事もなかったように視線をケーキに戻して、フォークで一口すくった。

無視かよ!?
はぁ、と私はため息をついた。


「……私もケーキ食べ…………っんむ!?」


フォークが歯に当たる音がしたと思ったら、自分の口の中に広がる甘いクリームの味。
あ、かぼちゃだ。

私は目をぱちくりさせる。
何が起こったのか。


そう思いながら、意識せずとも口に入れられたケーキはゴクンという音と共にお腹の中へとおさまった。



「……おいしい?」

「へ?……あ、うん」


きょとんとする私に翔音くんは僅かにだが、ふわりと微笑み、自分もまた食べるのを再開した。


えと……もしかして、翔音くんが食べてるケーキを一口くれた感じ?
きっと私がいった”おいしい?”の返答のつもりだろう。

うん、とてもおいしかった。




あれ、ちょっと待とう。
これってこれってもしかしなくても、アレ……。

か、間接……キ、






「翔音って結構大胆なとこあるよな」


いつ復活したのか、隣からひょっこり顔を出した朔名に、もう一度鞄が当たる3秒前。



Trick or Treat!!

(お菓子とイタズラの比率おかしくね?)


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