◎ 32
桐原くんの提案で私たちはお昼にすることにした。
もちろん、飲食店があるわけじゃないから食べ歩き状態だけども。
クレープ生地でピザを包んだのが売っていたので私はそれを買ってみた。
そりゃあもう文句なしで美味しかったよ!!
翔音くんも渡したお金で買ってたけど、クレープを見て物珍しそうにしながら食べていた。
初の食べ歩きですね!!
「よし、次はジェットコースター!!誰が何といおうと乗るんだジェットコースターっ!!」
お昼が終わった瞬間、橘くんがそう叫びだした。
……そんなに乗りたいのか。
いや、私も乗りたいけど。
「先輩うるさいですよ」
「だあってジェットコースターがあそこで俺を待ってんだよ!?」
「ジェットコースターはあの場から動きません」
「うぐー……、お前人の揚げ足ばっかりとってェェェェ」
ぐぬぬぬぬーという感じで橘くんは桐原くんを睨んでいる。
正直全く恐くないけど。
まあジェットコースターといったら遊園地の定番中の定番。
乗らないわけがないので私たちはさっそく乗ることにした。
「ねえ芹菜、隣座ろっ」
私たちの順番がくると、玲夢がそういってきた。
「うん、もちろんいいよ」
「じゃあ一緒に落ちるとき手離そうね!!」
「………なんですと」
手を離す?
確かに私はジェットコースターは好きだ。
でも手を離すのは怖くてやったことがない。
どうしようとか思ってる間に順番がきて、私たちは乗り込んだ。
よし、玲夢にはああいわれたけど私は離さないからね。
いつもどおりジェットコースターを楽しむんだ!!
と思って油断していた数秒前の私は相当な馬鹿である。
落ちる寸前で玲夢に手を取られバーから離されてしまった。
そしてポカンと呆気に取られる私をよそに、ジェットコースターは勢いよく落ちるのだ。
「……………あぁぁぁ…………」
「だ、大丈夫芹菜……?」
私たちは今近くのベンチのある場所にいる。
そして私はそのベンチにぐでーっとうなだれていた。
はっきりいって大丈夫じゃない。
ジェットコースター大好きなはずなのに、手を離した瞬間、あのふわっとする浮遊感がいつも以上にきてとにかく怖かった。
今ならわかる、ジェットコースターを嫌いな人の気持ちが。
「ご、ごめん芹菜。まさかそこまで怖がるとは思わなくて……、あんたジェットコースター好きっていってたから」
「いやー、うん……私もこうなるとは予想外だよ」
とりあえず、少しだけ気分を落ち着かせようと思う。
別に気持ち悪いわけじゃないし、すぐに良くなるだろう。
「みんな何か乗ってきていいよ?私も少ししたらいくから」
「え、でもそれじゃあ芹菜が……」
「大丈夫大丈夫、気分悪いわけじゃあないし、すぐ治るって。それよりせっかく遊園地きたんだから乗りまくらなきゃ!!ね?」
玲夢たちはしぶしぶといった感じで納得してくれた。
でもお詫びに何か買ってきてくれるみたいだから楽しみにしてよう。
しばらく、といっても20分程度だが私はそのままベンチでうたた寝していた。
玲夢たちはまだ戻ってきていない。
まあ20分そこらじゃ戻ってくること自体難しいんだけどね。
ふあぁぁっと欠伸をする。
短時間だけどよく寝た。
おかげですっかり気分も良くなった。
これならすぐにでもアトラクションに乗れそうだ!!
「ねえ、君」
ふと顔をあげると20歳くらいの茶髪な兄ちゃんたちが2人いた。
「そんなおっきな欠伸して、もしかして暇なの?」
「暇なら俺らとどっかいかねえ?」
私は目をぱちくりさせた。
………これは、いったい何なんだろう。
あれ、この兄ちゃんたち私に話しかけてるよね?
だって私の後ろ植え込みだもん、当然だ。
じゃあなんで私なんかに………………あ、そうか!!
「トイレならあっちにありますよ?」
「いや、トイレとか探してねえし」
なんだ違うのか。
じゃあ何だっていうんだ。
「君、今暇なんでしょ?」
「はぁ……」
「だったら俺らと遊ばない?」
「はぁ……」
あぁなんだろうこれ、初めて体験するけどどっかで見るようなこの光景。
「あっ!!もしかしてこれってナンパってやつですか?」
「それ以外に何があるんだよ!?」
ああなるほどねー、どっかで見たことあると思ったけど、漫画とかドラマとかでみるよねこういうの。
そっか、ナンパか……………うん?
「ナンパァァァァァァッ!!??」
「うわっ、なんだよいきなり!?もしかして初めてだった?」
普通初めてでしょーが!!
え、待って待って頭が整理できてない。
何故私にナンパする?
私が暇人に見えたから?
失礼な!!
私だってちゃんと友達ときてるんだから!!
ああもうナンパするなら他行けよぉぉ。
こっちはやっと気分も良くなって、さあ乗りにいこうってとこだったのに。
……っていうかこういう場合ってどうやって切り抜ければいいの!?
うわ、どうしよう!?
たよりのみんなはまだ戻ってきてないし、他のお客さんは見て見ぬふりだし。
何なのほんとこの兄ちゃんたちは!!
年下に声をかけるな!!
このロリコンッ、チャラ男ッ、隣の兄ちゃん髭似合ってねえよ!!
「……君、面白いね」
「……は?」
「さっきから百面相してるよ」
おっと、顔に出ていたか!!
“面白い”って……、私兄ちゃんたちのこと馬鹿にしまくってますけど。
にしても、ほんとにどうしよう。
に、逃げるか……?
「まあとにかくどっかいこうよ、俺らが奢るし」
「うわ……っ、ちょっと!?」
兄ちゃんに手を掴まれそのまま一緒に歩かされた。
抵抗しても力じゃ男にかなうはずもなく。
手、痛い!!
……力じゃかなわないなら……、よし。
「誰かァァァァ助けてくださァァァァいッ!!」
「うわっ馬鹿、騒ぐなよ!?あぁぁ畜生!!」
さっきよりも歩くスピードが速くなった。
というか走っている。
ええええ馬鹿はそっちでしょ手ェ離してよ馬鹿あああああ!!
大声で叫んだものの、周りのお客さんは何事だとこっちを振り返るが、私たちが一瞬で走り去るので気にしないで遊園地を楽しんでいる。
ちょっとぉぉぉ今こっちみたでしょ何で誰も助けないの!?
こいつら私の連れじゃないっつーの!!
そのまま走らされて着いたのは遊園地の中心からちょっと外れてわりと人が少ない場所。
そしてまたも私は近くにあったベンチで項垂れた。
だって男の人の走るスピードで走らされてたんだよ?
そりゃあ疲れるさ!!
(……なあ、なんで俺らこんなに疲れてんだ?)
(あの子が叫んだからだろ、お前ナンパ失敗したな)
(う、うるせーなっ、ならお前いけよ!!)
(ああ、わかってるって)
なんか兄ちゃんが話してる。
小声で何いってるのかよくわかんないけどそんなことはどうでもいい。
これはあれだ、体育のシャトルラン全力でやりきった後みたいな感じ。
とにかく息が続かない。
そして喉が痛い。
今は夏だからすっごく暑いし、水が恋しい。
誰か水くれ………。
「ごめんね、無理に走らせちゃってさ」
「……、?」
「疲れたでしょ、息も絶え絶えだし」
「……べ、別に……これ、くらい……」
うわ、しゃべりづらい……、喉がキリキリする。
「でもさ、君……無防備すぎだよ」
「……な、にが……」
「疲れさせたのは悪いと思ってるけど…………、その顔は反則だな」
「……?」
私、今どんな顔してる?
……わかんない、とりあえず熱いです。
兄ちゃんに顎をクイッと上げられた。
「誘ってんの?」
ニヤリと妖しい笑みを浮かべる兄ちゃんだけど、私は抵抗したくても体がぐでーっとしていてそれができない。
ああこれどうするよ、蹴り飛ばしたい本気で。
でもしゃべるのがやっとな今の状態でそんな神業くりだせない。
もっと体力余ってればできる……………かもしれないのになあ。
「ねえ」
ふと聞こえた声。
「何してんの」
凛とした声に振り向くと、そこにはこちらを睨むようにしてみている…………翔音くんがいた。
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