◎ 30
「それじゃあ芹菜、今日から頑張れよ!!」
「……………うん」
「もちろん翔音もなっ」
「……ん」
あーあ、来ちゃったよテストが。
いつもより少し早めに学校にきた。
けどそれよりはやく来ている生徒が多く、みんな友達同士で集まっては問題の出しあいをしていた。
今からやったってそんなに頭に入るわけじゃないんだけど、まあ気休めだよね。
そうしないと落ち着かない。
「翔音くんは復習バッチリ?」
「……まぁ」
「いーなー頭いい人は」
「……交換はやだからね」
……読まれてたかっ!!
「おっはよー芹菜に翔音くん!!」
「あ、おはよー玲夢」
「……はよ」
参考書を手にした玲夢がかけよってきた。
「どう芹菜、テスト勉強の出来は?」
「……正直いってヤバい。でも教えてもらったとこは、多分、多分大丈夫な気がする」
「(今2度言った)だよね、あたしもそんな感じ。翔音くんはどう?」
「……別に問題はないけど」
「さっすが翔音くんだねっ、尊敬するよその頭脳に!!」
「………」
「あたしにもその頭脳分けてほしいなっ」
「……同じこと言ってる」
「え、何が?」
あはは……、考えてることはみんな一緒か。
テストは3日にかけて実施する。
今日のテスト教科は現代文と日本史と英語。
残りはあと2日にわけてやるということだ。
だいたい午前中に学校は終わるけど、家に帰っても勉強しなきゃいけないって思うと、辛すぎる。
先生が教室に入ってくる。
その瞬間クラスの雰囲気が変わった。
ああ、テストがはじまる合図だ。
「……………」
なんだか今日1日で体力削られた気がする。
テストが終わった瞬間、私は机にぐでーっと寝そべった。
辛い、辛すぎる。
「……何寝そべってるの」
上から声がふってきた。
首だけそちらにむけると、翔音くんがそこにいた。
「……帰らないの?」
「ああ……帰るけど、帰りたくない」
「何それ」
「だーってさー、帰っても勉強しなきゃだし………、テスト週間のときだけは家に帰りたくなくなるもんなのよー」
「……でも結局は帰るんでしょ」
「う……………」
そ、そうだけどさああああ。
こんなことしてても無駄に時間潰すだけだってわかってるけども!!
頭が単語だらけでもやもやするんだよおおお……。
「……これ、あげる」
「?」
翔音くんの手にあったのは黄緑色の紙にくるまれている飴だった。
「飴?もらっていいの?」
「ん」
「あ、ありがとう……。翔音くん、飴なんて持ってたんだ」
「……さっきもらった」
「え、誰に?」
翔音くんが指さした方向にいたのは橘くんだった。
「……疲れたときは糖分とったほうがいいっていわれて、くれた」
「そうなんだ」
飴くれたのは嬉しいけど、翔音くんが食べ物をくれるなんて。
いつぞやのバイト前ではケーキ1人食いしてたのに。
珍しいこともあるもんだ。
あれから2日、私は死に物狂いだった。
勉強しなきゃと思って机に向かうけど、手はなかなか進まず苦労した。
けど…………やっと終わった、テストが。
「やっふおおおお終わったテストがああああ」
「……うるさい」
今は3日間のテストが終了した帰り道。
私がぐーっとのびて叫べば、隣にいる翔音くんは耳を塞いでいた。
「だってもうテスト終わったんだよ?明日と明後日はテスト返しだけで授業はないし、もう今週末から夏休みだよっ!?」
「……そんなに嬉しい?」
「うんっ、嬉しい!!」
「……っ、そう」
あれ、翔音くんちょっと引いてる?
ま、いっか。
「やっぱりせっかくの夏休みだしどっかいきたいよね!!」
「……暑い」
「翔音くんは遊びにいきたくないの?」
「…………暑い」
なんだろう、このテンションの違い。
でもどうせいくならやっぱり遊園地かなあ。
私ジェットコースター大好きなんだよねー。
「遊園地いこう!!」
「……は?」
「遊園地いこう!!」
「いってらっしゃい」
なんて報われない…っ!!
「違う違う、翔音くんも一緒にいくんだよ!!」
「……2人で?」
「う!?」
そうきたか!!
あれ、この場合なんて返事すればいい?
“うん、2人でいこう”
………ただのデートじゃん!!
“ううん、玲夢たちも誘っていこう”
……やっぱりこれがまともかな……。
「玲夢たち誘ってみんなでいこうと思うんだけど……翔音くんはどっちがいい?」
「どっちって?」
「え、だから……みんなでいくか2人でいく、……か?」
「……別にどっちでもいいけど」
「……えッ!?」
どっちでもいいだと!?
2人でもいいと?
いやダメダメ、それはよくない。
いや、いいのか?
あれ、わかんないや。
「じ、じゃあみんなでいこう!!」
「う、ん」
焦って勢いよく答える私に翔音くんは少したじろいだ。
多分翔音くんの場合、2人でいくってことがどんな意味なのかわかってないんだろうなあ……。
無垢って罪だ……!!
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