27


最近暑くなってきたから私の家ではしばしば冷房をつけるようになった。




もうすぐ7月も半ばに入るころだ。



部屋には扇風機も出したし水枕も買ってあるし、夏対策は万全である。





寝るときは上は半袖、下は七分丈のパジャマでタオルケット1枚かけておけば十分だ。




夏真っ盛りのときよりは汗でベトベトした感じはまだなく、起きたときの不快感もない。





わりと過ごしやすい気候だ。









私はぐっすり眠った。


土曜日と日曜日のバイトで体が疲労をためてしまったからだ。




布団に入ってからすぐの記憶がない。

それだけ疲れたのだと感じると同時に、バイトで時雨さん達の手伝いができてよかったと思う自分がいた。








そんなことを無意識に考えていた朝だった。








「……て、………ぇ」





誰かの声が聞こえる。



誰だろう。





目を開けたいけど………眠い………。





「……き……よ……、」




まだ聞こえる誰かの声。




眠いのに………誰なの?











「布団から落としてもいいの?」

「おはよーございますぅぅぅぅ」



一気に覚醒した。



「………」

「………」

「………」

「……ふぇ……な、何ぃ……?」




あ、寝起きでうまくしゃべれないや。


……恥ずかしい。








「……起こしに来たんだけど」

「……え?あ、うん……もう朝、だもんねぇ……」

「……そうじゃなくて、」

「?……違うの?」






未だにぽけーっとしている私に翔音くんはため息をついた。



そして私がいるベッドに座った。





「……早く目覚まして」

「さめてるよぉ……だいじょうぶ」

「……子供みたい」

「………?」

「……はぁ」






さっきからため息多いなあなんて呑気に考えていると、翔音くんは窓のスペースに置いてあるものを取った。




そしてベッドに片手をついて“それ”が私に見やすいように近づいてきた。




ちょ……近……っ、








「今何時だと思ってんの」





一瞬ぽかんとした私は眠い目を擦って“それ”をみた。




“それ”……私の目覚まし時計は9時をさしていた。









「だっぱああああああああ」

「……うるさい」





本日何度目かわからない翔音くんのため息が聞こえた。



一瞬焦ったものの、すでに遅刻している時点で急ぐ気力もなく、普段よりはちょっと早いくらいのスピードで準備をした。







今は学校に向かってる最中だがそれもあまり急ごうとは思わなかった。





あああ……遅刻癖ついちゃいそうだな。








「……そういえば翔音くんさ、」

「?」

「なんで遅刻してまで私を起こそうとしてくれたの?」

「……前に、起こしてほしいっていわれたから」

「あー、うん……そうだね、ありがとう。……でも翔音くん自身も遅刻だと罪悪感が……」

「……?」

「ほら、遅刻とかすると評価が下がるしさ………ね?」





「……ベッドから落とせばいいってこと?」

「いや、誰もそんなこといってない」



……気にしてないみたいだし、いいのかな。







そんなこんなで学校についた私たち。



おそるおそる教室のドアを開けた。






が、何故か授業は行われていなかった。




「…………あれ?」




私はぽかんとした。




「おはよう翔音クン、ついでに藍咲サンもね」

「私はおまけか」




ドア付近の席にいた新井くんがニコッとしながらいってきた。





「遅かったね、寝坊でもしたの藍咲サン?」

「え、私限定?」

「だって翔音クンは真面目だからね」

「一言一言棘がありますなあ」



まだ起きてから1時間もたってないのに朝っぱらからイラッとさせないでほしいわ。





「そういえば、授業はどうしたの?みんな遊んでるみたいだけど……」

「ああ、今日は担任が休みだから自習なんだよ」





休み?





「さてはドアの角に小指ぶつけたな?」

「さすが藍咲サン、面白いこというねー、ナイスだよ」

「馬鹿にしてるならもっとハッキリ言おうか」



遠回しにいわれるとなんかじわじわくるよ。



「でも遅刻なんて余裕だねえ」

「え、余裕って?」

「忘れたの?再来週には夏休み前のテストがあるでしょ」

「なんですと!?」






す、すっかり忘れてた!!

やばい、何にもしてない!!


……まあでもまだ2週間もあるしなんとか、ね。






「ねえ」

「え、あ、何?」




私が焦っていると隣にいた翔音くんが話しかけてきた。






「“てすと”って何?」

「え……」




あ、そっか……翔音くんは……、






「……どういうこと?」



反対側から新井くんも問いかけてきた。





「え?」

「テストを知らないって、何で?」

「……え、と」






しまった!!
私は皆に翔音くんの本当のことは話してないんだった!!




ど、どうしよう。






そんなとき、タイミングよく授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。


た、助かったああああ!!






「あああもう授業終わっちゃったねー!!わ、私はちょっと他のクラスに用があるから、またねっ!!」




私はあわててなんとかごまかしてその場をやりすごした。






「………」





私が去っていったドアを新井くんが見つめていたことも知らずに。

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