◎ 18
「あのっ、このチョコレートケーキをどうぞっ」
「そんなベタなのより、当店自慢のフルーツケーキのほうがいいですよ!!」
「それもベタじゃない!!このチェリータルトのほうが絶品ですよっ」
ああああ……、どうしてこうなった。
私たちがこの店にやってきたのはだいたい開店の1時間前。
その時間になると店に出勤してくる人が多くなる。
朔名の姿も見えない。
多分準備しにいったんだろう。
翔音くんが店の奥にいったのをみたっていうし。
私がその店の奥に目を向けたときだ。
その奥からメイド服を着た………いや、あれは一応この店の制服だからここは普通にウエイトレスにしよう。
ウエイトレスさんたち何人かが現れた。
それぞれテーブルクロスだったり看板だったり掃除をしたりなど、開店前の準備をしている。
なるほど、開店前はこんな感じなわけね。
それぞれ仕事が終わると、みんなこちらにやってきて店長である時雨さんに挨拶をした。
そしてそのあと、私たちの存在に気づいた。
正確にいえば私の隣にいる翔音くんの存在に。
あれよあれよと連れていかれ、ケーキをすすめられるという冒頭にもどるわけである。
年は私たちとそう変わらない20代前半の人しかいない。
年齢なんて関係ないんだろう。
翔音くんは誰がどうみても美少年なんだから。
立っているのもなんだから私も翔音くんの向かいに座った。
一緒にきたのに別々に座るのもおかしいだろうし。
けど……、居づらい。
翔音くんは食べるのは好きだからもらったケーキは遠慮なく頂いている。
よくそんな甘いものばっかり食べれるよね……。
文字通り女の子顔負け。
「お客様、チェリータルトとラズベリーティーをお持ちしました」
とりあえずと思ってメニューを開いているとウェイターさんが品を運んできた。
注文はしてないけど、気を利かせてくれたのかな。
「あぁ、ありが……………」
お礼の言葉は最後まで言われることはなかった。
全て右に流したヘアスタイル、ビシッと着こなしたバーテン服、首には黄色とオレンジのチェック柄のスカーフ。
だけど顔にはサングラス。
「さっ……、朔名……っ」
自宅でとは一風変わった兄の姿があったからだ。
「……本当にここで働いてるんだね」
「なんだよ今更」
「いやだって、雰囲気違うし」
「ああ、惚れたろ?」
「朔名に惚れるくらいならケーキ顔面に塗りたくるわ」
「真顔!!」
まぁ1万歩譲ってバーテン服はいいよ?
髪型もキマってるよ?
でもグラサンはないよね。
ここ可愛らしいお店なんだよ?
黒ぶち眼鏡ならまだしも何故グラサンをチョイスした。
個性が滲み出すぎだよ。
でもまぁいいや。
変な目で見られるのは私じゃないし。
私じゃないし。
「いただきます」
とりあえず朔名のことは気にしないようにしよう。
せっかくこの店のケーキにありつけられたんだし。
「おいしい……っ!!」
チェリータルト。
甘酸っぱいさくらんぼのムースの中には果肉が入っている。
タルト生地はもちろんサクサク。
お皿に模様付けされているチョコレートソースをつけて食べれば、甘酸っぱさとほろ苦さが見事にマッチ。
一緒にだされたラズベリーティーもタルトとはまた違った甘酸っぱさが口に広がり、ケーキと交互に口にしても甘過ぎることのないちょうどよさ。
「すごいおいしい……、ほんと、これしか言えないくらい!!」
チェリータルトもラズベリーティーもあっという間に食べ終わった。
これなら何個でもいける!!
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