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蝉の鳴き声があたりにたくさん響きわたり、夏の暑さをさらに暑く感じさせられる。




海に思いっきり飛び込みたいと望んではみるものの、そこまで出かけるのは面倒だ。



水のほうから飛んでくればいいのに……なんて非現実的な事を考える私の頭はいよいよおかしくなったか。




いや、でも共感できる人はたくさんいるんじゃないか?





「あぁぁああ……」




ソファーで横になりながら団扇であおぐ。


でも手首が疲れるうえに生温い風しかこないから一向に涼しくならない。



なんて悪循環。





「あぁぁああ……、いうえおー」

「……何がしたいの」





私が寝っころがっているソファーの前に座ってテレビを見ている翔音くんから呆れた声が聞こえた。




「だーって暑いんだもーん……、何かしゃべってないと気が紛れない」

「……テレビの音聞こえなくなるから静かにしてて」

「うぅ……………」





もっともなことを言われて私は黙るしかなかった。


確かに私だってテレビ見てるときに邪魔されるのは気分よくないけどさあ。





実に暇である。




もっと涼しかったら何かをする気も起きるだろうけど、最悪なことに今うちのクーラーは故障中だ。


今度買いにいかないといけない。




だから私は頑張って団扇であおいでいるわけなんだけど……。





ソファーの前に座っている翔音くんの後ろ姿が目にはいる。




私の手には団扇。

前には翔音くん。


やってみたいことはただひとつ。




寝たままだとやりにくいから、私は起き上がって翔音くんを団扇であおいだ。



まずは普通に。




当の本人は気にしていないのか、どうでもいいのか、相変わらずテレビに目を向けている。




次にちょっと強めにあおいでみる。



翔音くんのさらさらな髪が風によってなびいた。




そしてさらにもっと強くあおいでみる。



もう、ぶぉわぁぁぁって感じで髪がなびいた。





さすがに手首が疲れたので左手に団扇を持ちかえて、またあおごうと構える。




すると翔音くんはこちらを振り返った。






「……構ってほしいの?」





団扇を構えた状態で私はフリーズした。






「そ……っ!!そんなわけあるかああああっ」




そして団扇をソファーに叩きつけた。





「……翔音くん、涼しそうな顔してるね」

「………そう?」

「暑くないの?」

「……暑いよ」




だが翔音くんの顔はいつもどおりの無表情で、全く暑そうにはみえない。




君の新陳代謝仕事してる?




にしてもほんとに暑い。



クーラーが使えないだなんて生きていけない。




さて、どうしよう。








「……あっ!!そうだ!!」




いいことを思い付いた私は勢いよく立ち上がった。





が、





「うっ…………」




急に立ち上がったことで立ちくらみが襲いかかり、私はソファーから崩れ落ちた。






「……ねぇ、ほんとに何がしたいの」




頭上から降ってくる声に、苦笑いするしかなかった。














「うひゃあああやっぱりここは涼しいよねー!!」





やってきた場所は大きなデパート。


ちなみにいうと、翔音くんと初めて買い物にいったときと同じところ。





そうだよそうだよ、なんで今まで気づかなかったんだろう。


ここなら電気代気にせず涼しめるじゃないか!!





「……涼しむためにここに来たの?」

「うん、そうだよ。デパートはいつでも快適にすごせる素晴らしい場所なんだよ!!」

「………………」





なんだか翔音くんにとっても呆れた顔をされている気がする。



い、いいじゃんかっ!!
ここまでくるのは面倒だけど、結果的に涼しめるんだから!!





とはいえずっとこんな入り口付近で突っ立っていてもしょうがないので、私たちは奥へ歩き始めた。




ちょうどお昼時だし、何か食べていこうかな。





あたりを見回してみると、飲食店がたくさんあった。



その中からひとつのお店を指差して翔音くんに振り向く。




「ねえねえ、あそこいこう、パスタ屋さん」

「……ぱすたー……?」

「いわゆる“麺”です」




我ながらなんて雑な説明の仕方なんだと思ったけど、翔音くんは興味をしめしているようだったので、私たちはそのお店にはいることにした。




「えーっと、海老クリームパスタとカルボナーラ、食後にハチミツレモンのシャーベットを一つお願いします」

「かしこまりました。少々お待ちください」





私はカルボナーラ、翔音くんは海老クリームパスタを頼んだ。



ちゃっかりデザートを選んだ翔音くんはさすがだと思った。


ほんと甘いもの好きだよね。









お待たせしましたの声とともに、私たちのテーブルにパスタが運ばれてきた。





「「いただきます」」




食べる前には必ずいうこの言葉。


翔音くんに教えてから、私も家だけでなく外食でもいうようになった。



この一言で最後まで食べようって気持ちになるから不思議なんだよね。





「……うわあめっちゃおいしいカルボナーラっ、クリーミーだ」




カルボナーラ……というか、パスタ自体食べるのが久しぶりだ。


たまにはこういうのもいいよね。




なんとなく前をみてみるが、翔音くんはパスタに手をつけていなかった。




「どうしたの?食べないの?」

「………」

「……翔音くん?」

「…………どうやって食べるの?」





スプーンを持った翔音くんがパスタを見ながら首を傾げた。

……おいおいお兄さん、なんか根本的に間違ってます。

どうあがいてもスプーンでパスタは食べれません!!





「……あのね、まずこうやって……、」



私は左手にスプーン、右手にフォークを持ち、適度な量のパスタをとりスプーンの上でフォークをくるくると回した。




「……おーけー?」

「………」




見よう見まねで翔音くんも挑戦!!


とったパスタは見事にフォークから滑り落ちました。





「………」

「……………………」




一生懸命くるくるしようとするそのお姿、とっても可愛いです。



な、なんだろう……母性本能が……!!






なかなかうまくいかず、むすっとした翔音くんはスプーンとフォークを置いた。



……食べるの諦めちゃったのかな……?




そう思ったのも束の間、テーブルにあった割り箸をとって普通にパスタを食べはじめた。





パスタを割り箸で食べるなんて………、なんてシュールな光景だ。



今度ちゃんと教えよう。

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