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「なあ、夏祭りいかねーか?」

「……夏祭り?」

「……?」






夏休み、バイト以外は外にでることはなく、涼しい家の中でぐだぐだと過ごすのが最近の日課となってきている藍咲家。





外に出た瞬間、あのムワッとするような熱気が嫌なんだよね。





そんなある日のこと、朔名の提案にどうしたものかと悩んだ。




お祭り……いきたいけど人混みすごいんだよねー。




ああ……でも屋台で何か食べたいかも。

夏限定だもんね、屋台は。





ちらっと隣を見てみると、きょとんとした顔の翔音くんがいた。




……お祭りが何なのかわからないって感じ……かな。



まあ遊びだけど、これも経験のひとつだよね!!





「うん、いこうお祭り!!」

「ほんとか!?よっしゃ!!実は近くにわりと大きな祭りがあってさ、今日」

「今日ッ!?」




ず、随分唐突なお話だなあ。

昨日あたりからいってくれればよかったのに。






「そうと決まれば準備しなきゃなあ」

「準備?何か持ってくの?」

「何いってんだよ、祭りっつったら浴衣だろ。芹菜も着るよな?」

「浴衣……暑いし苦しいし動きづらいから嫌」

「そんなこといわずにさあ!!」

「……ていうか朔名仕事は?お祭りだって遊びみたいなもんだよ、許可おりたの?」

「ああ、仕事少し早めに終わらせて祭りいくかわりに、明日はその時間の分だけ残業ってことにした」






なるほど、それなら問題はないか。

時雨さんやっぱり優しいな。


まあ早く帰ったぶん残業ってところはきっちりしてるけど。






「確か浴衣はどっかにあったよなあ、去年も着てたしそんな奥にはしまってねーはずだけど……、」




そういって朔名はリビングをでて浴衣を探しにいった。





どうあっても私の言葉は聞こえないフリか。







「……ねえ」

「え、何?」

「……“おまつり”って何?」

「あああ……まあ、夏の風物詩みたいな?お参りしたり屋台で何か食べたり花火見たり……、人混みすごいけどわりと楽しいよ」

「……屋台……、」


ああ、やっぱり貴方は食べ物の話に食いつくのね。




時間とは早く過ぎるもので、あっという間に夜になり、3人でお祭りの場所へ向かった。





私の着ている浴衣は淡い黄色の生地に牡丹が描かれているもの。


とにかくピンクの浴衣は避けたかったから、選んだ結果これになった。





翔音くんの浴衣は朔名から借りたものだ。


紺色の生地に、肩からお腹くらいにかけて白で龍が描かれている。




あああそういえば去年着てたねこんな浴衣。


この浴衣にサングラスとかどこの不良だよって思った。




んー、でもさすが翔音くん。

ピアスとかしてるからってのもあるかもしれないけど、バッチリ似合っている。

浴衣が浮いている感じは全くない。




これぞ美少年の特権か。





……にしてもやっぱりこの下駄痛いなあ、歩きづらい。






「よし、じゃあまず何しようか?」




そういう朔名は私服である。


まあ自分の浴衣は翔音くんに貸しちゃってるから当然といえば当然なんだけど……。




“浴衣着ようぜー!!”みたいなこといっときながら自分は動きやすい私服とか、なんのイジメだ。






「うーん……どうしよっか……、翔音くんは何したい?」




私は翔音くんのほうを振り向くが、彼は私とは逆の方を見ていて聞いている様子はない。





「……翔音くん?」




目線をおってみると、そこにはリンゴ飴の屋台。





……ほんと、食べ物のことになると無表情でもわかりやすいな。





「朔名、翔音くんはリンゴ飴の屋台にいきたいみたいだよ」

「らしいな、んじゃいくかっ」



翔音くんの無言の希望にこたえて、私たちはその場所へ向かった。




「おじさーん、リンゴ飴1つください」

「はいよー、300円ねー」

「えーっと300円、300円……」

「ん、隣の紫髪の奴はあんたの彼氏か?」

「え?まさかー、違いますよ」

「じゃあそっちのグラサンの奴か?」

「え?まっさかー、赤の他人ですよ」

「ちょっとおおお芹菜ッ!?」












「翔音くん、どれがいい?」



たくさん並んでいるリンゴ飴を指して問いかける。


まあどれもみんな同じなんだけどね。





翔音くんはちょっと迷ったあと、1本のリンゴ飴を選んだ。






「じゃあおじさん、これ300円ね」




私は財布から小銭を出してわたした。





「ああ、もう1本おまけでもっていきな」

「え、いいんですか?」

「いいよいいよ、なんせこーんな別嬪さん連れてるんだから」





おじさんはそういってもう1本のリンゴ飴を私にくれた。



だがおじさんの目線は明らかに翔音くんに向いている。







あれ、おかしくない?



普通さ、


『おじさーん、リンゴ飴ください!!』

『あいよ、おっ!!お嬢ちゃん可愛いからもう1本おまけでもっていきな!!』

『やった、ありがとうございますー!!』





みたいな感じじゃないの?




え、お嬢ちゃん役=翔音くん?



うわああああ男に負けたああああ!!







私はじとーっと翔音くんをみる。





「………(じとー)」

「……?」

「………」

「……あげないよ」

「いらんわッ!!」





どうやら私がリンゴ飴欲しさに自分をみていたと思ったらしい。


私も1本もってるからね。





いやでも、ちょっと唇を尖らせてリンゴ飴を庇う翔音くんは可愛かった。




ほんと食べるの好きだな。




これじゃあ不審者とかに食べ物でつられたら、ほいほいついてっちゃいそうだよ。


……あ、なんかリアルにありそうだ、考えるの止めよう笑えない。




「次なにするー?」

「俺射的とかやりてーなあ」

「ああ射的かあ……、それなら確かあっちに……」





辺りを見渡すと、人がたくさんいる方に射的があった。




「うわあ人混みすげー……」

「そうだね、どうする?」

「え?もちろんいくけど?」

「ですよねー」





そんなに射的やりたいのかお前は!!





「翔音くん、次射的だって」

「……しゃ、てき?」

「まあいわゆる的当てゲームみたいな?」

「……ふーん」





翔音くんはさっき買ったリンゴ飴を食べながら……いや、舐めながら?少し首を傾げていた。





「リンゴ飴おいしい?」

「……おいしいけど、食べづらい」

「まあそういうもんでしょ。私もそれが理由であんまり食べないんだけどね」

「……じゃあそれ、どうするの」




翔音くんは私のもっているリンゴ飴に目を向けた。




「うーん……、翔音くんもう1本食べる?」

「2つもいらない」

「だよねー」





仕方ないから朔名にあげちゃおうかな。




……って、あれ?
朔名がいない。




私がキョロキョロしていると、浴衣の袖をくいっとひっぱられた。




「わっ……、何?」

「……あっち」




翔音くんの指差す方には、すでに射的を始めている朔名の姿があった。




行動早ッ!!


そんなにやりたくて待ちきれなかったの!?


ってか1人で射的やってる姿がなんか可哀想に見えるのは気のせいか。




射的のところにいくと、朔名はすでにいくつか商品をゲットしていた。




それのほとんどがお菓子類だ。



……これ全部食べる気?




「朔名、ずいぶんとったね」

「おう、まーな!!芹菜もやるか?」





ちょっと迷ったけど、せっかく来たんだしここは遊んでいこうと思い、私は朔名と交代する。




そして射的専用の銃(名前なんだっけ?)を構える。











「狙うはお前のグラサンだあああああ!!」


「ちょっと待って何かおかしい!!」






いつの間にか商品となっている朔名のグラサンを私は狙い打ちにした。





だが当たらない。


5連発くらいやったのにかすりもしない。




あれ、私ってこんなに下手だったっけ?





「朔名ぁ……全然当たんないよぉ……」


「そんな子犬みたいな声出したって無駄だよ!?だってあれ俺のグラサン!!」

「…………ちっ」

「舌打ちぃぃぃ!?」





もう嫌だこの娘!!なんて言われたけど、だってあれだけ撃って当たんないなんて悔しいじゃないか。






まあでもそのぶん朔名がたくさん商品とったからよしとするかな。




「朔名はまだ射的やってる?」

「んー……いや、もう満足したかな。結構とったし」




ニカッと嬉しそうに笑いながら商品を袋につめる姿はまるで男子高校生みたいだ。



私も自然と微笑んだ。







「じゃあ次はどこまわろうか」

「そーだなあ……、つか腹減らね?やっぱ食べ物系の屋台いこーぜ」

「そうだね、もう夕飯時か。じゃあ焼きそばの屋台とか……、」





屋台を探すためまわりを見渡すが、何かが足りない気がする。




朔名のグラサン………は、さっき自分で回収してたし。




私のリンゴ飴は、射的を交換するときに朔名にわたしたし。





……リンゴ飴?





あ………、






「……翔音くんがいない……」


しばらく沈黙が続いた。

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