19


とりあえず、厨房以外の一通りの仕事を教えてもらった。


接客はまぁできそうだけど、笑顔が……ね。



結局翔音くんは笑顔じゃなくてもいいってことになったけど、羨ましい。




顔が良ければ全てよし?


あれ、私の立場は?










そんなこんなでさっそく実践。
只今の時間は18時30分。


ピーク時と比べるとお客さんも減ってきた。
わりとゆったりと仕事ができそうなくらいだ。






笑顔……笑顔ね。

そしてそれ+“いらっしゃいませ”。



うん、大丈夫、できる。







ちょっとだけ笑顔の練習をしていると、窓ガラスからお客さんがこちらに向かってくるのが見えた。



さ、さっそく来やがったか。
覚悟しろ!!







カランカランと扉を開ける音がする。



私はお客様の少し斜めに立ち、笑顔で言うのだ。





「いらっしゃいませ。1名様でよろしいでしょうか?」





よし、完璧な笑顔だったぞ私!!
やればできるじゃないか。

もう大丈夫だ、1回やればコツはなんとなくつかめる。



私は自分をほめて自信をつけた。
こうしないとやっていけないもんね!!










「なんですかその笑顔。消しゴムで消したくなるんですけど」


耳を疑う言葉が返ってきた。


まさかの桐原棗くんがお客様でした。


「まさか藍咲先輩がこんなところにいるとは思いませんでした」

「いやそれこっちの台詞。な、なんで桐原くんが…………っていうかさりげなく私の笑顔馬鹿にしたでしょ」

「ここへはよく来るんです。それと、俺は別に馬鹿になんてしてませんよ。余分なところを消しゴムで消すのは自然の摂理です」

「つまり私の笑顔が不快だと?」

「不快とは言ってません。余分といいました」

「どっちも変わんねーだろうがああああ」






私の機嫌は最高に不愉快である。



せっかくテンション上げていこうかと思ったのに何故後輩なんかにけちょんけちょんにされなきゃなんない!!





だが落ち着け、芹菜。

さっきは思わずちょっと叫んだけど、ここはバイト先の店内。

これ以上騒ぎを起こしたくはない。




やっぱりここはひとつ、先輩としての落ち着きをみせなくては。





「……悔しいけど、さっきのは水に流して忘れることにするよ」

「そうですか」

「………では1名様、ご案内しますのでこちらへどうぞ」





こんなんでも一応お客様だから案内は最後までしなくちゃ。




まぁその間にもまたいろいろとけなされて私はズタズタになったけどね!!



19.予想外なお客様

(はぁぁ………)
(ため息つくと幸せ逃げますよ。ただでさえ雀の涙ほどなのに)
(逃がしてる原因はどこの誰かな)


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