01


さて、私もそろそろ帰ろう。
明日はテストあるし、成績下がるのも何か嫌だしね。


筆箱と漢字のワークを鞄にいれたのを確認してそのまま教室をでた。

あ、傘ももっていかないとね。

傘立てにいれてある淡いピンクの水玉の傘を見つけてとりだせば、今度こそ教室を後にした。





「うわぁ……すごい雨」


昇降口をでていざ帰ろうと外をみれば、さっき見たときと何ら変わらない雨の量。
傘をさしてもあんまり意味がない気がする。


学園から私の家までは徒歩で約20分。
なるべく近い学校のほうが楽だと思ってこの学園を選んだけど、こういう雨の日は電車やバスの人が羨ましい。


残念なことに私の家の近くまでいくバスは通っていないのだ。

しかたない、急いで帰るしかないか。



呆れたようなため息をついて、私は雨のなかを進んでいった。






急いで歩くといっても20分も急ぎ続けることはできなかった。

というより、歩いて数分で制服がびしょびしょになってしまったので急いでもどうにもならないと思って諦めたからだ。


もう4月になったけど雨がふるとまだちょっと肌寒い。
それに服が体に張りついているから余計に寒く感じる。

靴下にも雨が染み込んでいて何ともまあ嫌な感触がする。

家に帰ったら真っ先にお風呂にはいろう。



かたく決心してつき当たりの角を左に曲がったらもうすぐ私の家だと思い自然と足取りが軽くなった。


ちょっと機嫌がよくなりそのまま角を左折してまた歩き出す。


よし、着いた!と思って私の家があるところを遠目にみるが、家の前に黒い何かがいるのが見えてぎょっとした。



自然と足が止まる。
その何だかわからない黒いものが私の中に“恐怖”として植えつけられる。

雨の雫が冷たいだとか、張りついた制服が気持ち悪いとか、そんなことは一瞬で吹き飛んでしまった。


この暗い夕方の雨の中、私の目にソレはとても異様にうつった。



「な……に……?」


自然と口からでた言葉は誰にでもわかるくらい震えていた。


あの黒いのは何?
どうして私の家の前にいるの?


そんな疑問が浮かんでくる。
けどこのままここにいても何の解決にもならない。

私は傘をぎゅっと握りしめながらそーっと家まで歩みを進めた。





だんだんはっきりしてくる黒い何か。
家の壁の塀にもたれ掛かるように座っているのは……人?


家の目の前までくるとソレは人だということがわかった。
こんなに雨が降っているのに気付かないのか、そこから動かない。
……まさか不審者じゃ……ないよね?


こんな住宅街にホームレスが暮らせるわけないし、私の頭ではこの人を不審者と疑いはじめる。



そのまま知らん顔して家に逃げ帰りたいが、こんな家の近くにいられるのもはた迷惑である。


動かないのをいいことに、私はゆっくりとしゃがんでその人をみた。
気絶したふりで襲いかかってきたら怖いので、さしている傘を前に向けて盾代わりにしながら。





「……男の子……かな?」


顔を覗いてみるが雨で髪が張りついていてよくわからない。

なんとなく彼(?)の服にも目を向ける。
Yシャツにズボンと一見制服のようにみえるそれは、所々切り刻まれていてYシャツには雨で滲んだ赤黒い染みが……。




「……って、え!?ちっ、血だらけ!!」


さっきとは違う意味でぎょっとした。

赤黒い血が鮮明に目にうつる。
どうしようとか思っている反面、そうか、こんなに血塗れじゃ動きたくても動けないよね。なんて冷静に考えてる私は末期か。




とりあえず、家に運ぶ?

頭の中にその問いかけは曖昧に浮かんだ。
相手は不審者かもしれない人物だ。
でも今は動けないし血塗れ。
この傷で暴れたらきっと悪化するだろう。
それにこの雨だ。
傷口から炎症を起こして酷い熱を出すかもしれない。

見ず知らずの人を家にあげるのは気にくわないが、そのまま放っといていくのも見殺しにしている気がしてもっと嫌になるだろう。




私は傘をとじてこの人の右腕を自分の肩にまわして立ち上がる。

ほぼ引きずるようになっているがこの際仕方ないだろう。
ゆっくりとした足取りで玄関までいき、鍵をポケットから出してドアを開け、とりあえず玄関に横たわらせておいた。



私はふぅと一息ついた。
とりあえず濡れた体を拭くためにタオルをとりにいかなきゃね。





私、間違ったことしてないよね?




彼に問いかけたところで返事は返ってこないけど。



01.雨の中

(にしても重かったわ)
(やっぱり男の子だったか)


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