◎ 13
3.人付き合いは大切に
私には1つ疑問がある。
翔音くんはどんなにたくさんの女の子からまとわりつかれようが、決して振り払うことをしない。
何か話しかけられたらほとんど相槌くらいだけどちゃんと答えている。
普通ならあんだけまわりでガヤガヤされたらうるさくて振り払いたい気が起こると思う。
まぁ自分のことをかっこいいと思ってるどこぞのナルシストならわからなくもないけど。
翔音くんがナルシストか。
“今夜俺と遊ばない?”とでもいうのかな。
あれ、これじゃあただの遊び人か。
でも遊び人だってナルシストじゃなきゃできないよね。
さりげに自分のことイケメンって思ってるよね絶対。
こんな感じの翔音くんがいたら……ぶふぅっ。
「芹菜さん、とっても醜い顔になってますけど」
「もうちょっとオブラートに包んだ言い方できないのかな」
柚子に白い目で見られた。
醜い顔って、どんだけひどい顔してたんだ私。
見てられないってか?
「で、何を考えてたの?」
近くにいた玲夢にも話しかけられる。
私は最初に思っていた疑問だけを説明した。
ナルシストのことは、うん、忘れよう。
「あー、それはあたしも思ってた。めんどくさくないのかなって」
「いつも無表情ですがあんまり嫌な顔もしませんしね」
どうやら2人の意見も私と同じみたいだ。
まあ翔音くんは変わってるといえば変わってる。
私からしてみれば無表情だけど、少しとまどっているような、けどどこかまんざらでもなさそうな……そんな感じがする。
「それで、今日1日みててどうだったー?」
廊下を歩いているとふいに新井くんが話しかけてきた。
「は?どうって?」
「翔音クンのこと、観察してたでしょ?」
「観察って……、そんな無粋なことはしてないけど」
「でも見てたでしょ?」
にこーっと笑う彼に、あぁ、全部見透かされてるのかななんて思う。
今日みててわかったこと。
翔音くんには、人との関わりが必要だということ。
女の子に囲まれて振り払わなかったのは、嬉しかったからなのかもしれない。
変な意味ではなく、純粋に、人に関われて。
今の彼には、自分に友達がいたのかさえわからない。
どうやって人と関わってきたのかもわからない。
そんな孤独感の中で、ああやって一方的であっても自分に興味を示してくれる人がたくさんいるとわかった。
自分の“存在”を認めてくれていることに気づいた。
だから、まんざらでもない、いつもより少し優しそうな顔をしていたのかもしれない。
けどあくまでこれはすべて私の考えであって事実かどうかは明白ではない。
でも、いつもの無表情があんな風に少しでも変わるなら、やっぱり人との繋がりは必要だと思う。
つまりは友達。
翔音くんに今1番必要なものは、友達。
「……その顔はやっぱり何かわかった顔だね?」
「え、今私どんな顔してた?」
「ニヤニヤと気持ち悪い顔だったよ」
「あれ、おかしいな。結構真面目なこと考えてたんだけどな」
「何かわかったならもっと可愛い顔で笑えないの?」
「何であんたに笑顔のダメ出しされなきゃなんないの」
でもまぁとにかく、少しだけ翔音くんのことがわかったのは同じ家族としてとても喜ばしいことである。
私はまた口元を緩めた。
それに対して新井くんがこっちをみて何か言いたそうだったけどとりあえず気にしないでおいた。
けど、ふと疑問が頭をよぎった。
「何で私が翔音くんをみてたこと知ってんの?」
今日新井くんと会話したのは今が初めてなのに。
「俺も藍咲サンのこと見てたしね」
「え……」
「あ、勘違いしないでね。そういう意味の見てるってのじゃないから。藍咲サン俺のタイプじゃないし」
「それ前にも聞いたんだけど。つーかまだ何も言ってねええええ」
「先に言っとかないと勘違いする女の子とかいるでしょ?」
「それ知っててあえて私に言ったのか。もし本当に私が勘違いしちゃったらどうしてたの」
「…………………あ、ごめん。なんでもない」
「何この人ものすごく失礼」
くつくつと笑う彼にどうも苛立ちを感じる。
けどまだ初めて会話したときからそんなに日はたっていないのに、ぽんぽん会話が進むのはまぁ良しとしよう。
新井くんが私に今日のことを質問したから私が改めて翔音くんのことを知れたんだしね。
うんうんとうなずきながら私たちは教室へともどっていった。
13.観察日記
(何1人で頷いてるの気持ち悪いなぁ)
(ちくしょう全然良しじゃない)
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