12


「――……じゃ、これでHRは終わりにする」



担任のその言葉で今日1日が終わった。

やっと帰りだ、なんだか精神的に疲れた。
あの噂のせいだ。

休み時間になるたびにいろんな女子から“付き合ってるの?”だの“デートした?”だの聞かれて散々だった。


私同様翔音くんも聞かれてたみたいだけど、彼はもともとそんなに喋るタイプじゃないから無言を突き通していた。

それでも女子がまわりによってくるのは美少年さゆえだろう。






さて、私も帰るかと思って席を立つ。

噂がどんなに広がっていようが付き合ってる疑惑をもたれていようが、帰る家が同じなんだから一緒に帰るしかない。



そう思って後ろをみた。


だがすでに翔音くんの姿はなかった。




「あれ、翔音くんは?」

「翔音さんならHRが終わったすぐあとにお帰りになりましたよ?」

「あははははっ芹菜フられちゃったね」

「告った覚えもないけどね」



玲夢たちには昼休みのときに誤解をといたので、私が翔音くんと一緒に帰ったりしても何も言わなくなった。


なんだ、先に帰ったか。
まぁそうだよね、家同じだからってわざわざ一緒に帰る義務なんてないか。




「じゃあ私も帰ろうかな。2人とも部活がんばってね!!」

「うん、また明日ね芹菜ーっ」

「また明日」



玲夢と柚子に別れを告げてから私は教室をあとにした。















「……うっそー………」



昇降口を出て絶句した。
なんと外はどしゃ降りの雨だった。
たしかに朝はくもってたけどまさかこうなるとは。



「なんてことだ、傘ないし」



今日は生憎折り畳み傘さえもっていなかった。
運が悪い。




しかたないから走って帰ろう。

こうなると本当バスがないのが恨めしい。




正面ゲートをでて帰ろうとすると、ゲートの隣の学園を囲む塀に傘をさした人が立っていた。




「………あれ、翔音くん?」

「……ん」

「帰ったんじゃなかったの?」

「……帰り道わかんないし」

「あ、ですよねー」



帰り道がわからないんじゃ一緒に帰るしかない。
というか道を知っていたとしても、待っててくれたのに別々で帰るのもちょっとね。




「あのさ、」

「?」

「実は今日傘忘れちゃって……。その傘に私も一緒にはいりたいんだけど……いい?」

「……いいけど」

「ありがとうっ」




相合い傘になるけど。
この年頃になるとこういうことには敏感になるものだ。
翔音くんは全く気にしていないようだけど。


にしてもよく傘持ってたな。
多分朔名に言われて持ってたんだろうけど、私にもいってくれればよかったのにちくしょーめ。






そんなことを考えながら翔音くんが持っている傘にはいってお互い歩き出す。

会話はもちろんない。
ザーザーという雨の音がよく耳にはいる。
雨特有のにおいも感じる。





そういえば、初めて翔音くんに出会った日もこんなどしゃ降りの雨だったっけ――……。




「ねぇ、」

「……え、何?」



ボーッと考えていたから翔音くんの声にすぐに反応できなかった。

けど彼は気にしていないようなので私も気にせずに彼に視線を向けた。



「左肩、濡れてるけど」



私の方に1度目を向け、また前を向いて翔音くんはそういった。


私は今左側にいる。
確かに私の左肩は雨にうたれて完全にびしょびしょになっていた。

それは私が少し左側に傘からとびだしているから。



さっき昇降口から正面ゲートにいくまでで随分濡れてしまったから、翔音くんとくっついて歩くと彼も濡れてしまうからだ。

「あぁ……これは、ほらっ、私こう見えて肩幅あるしっ、折り畳み傘小さいから余計に……ねっ」

「………………」

「……あ、うん。なんかごめんなさい」






うわ、これ完全に滑ったよね!?
翔音くん完璧無視だし!!
ごまかせねええええ。







「……さっき正面ゲートまでいく間で結構濡れちゃったからさ。私が寄ったら、翔音くんせっかく傘で濡れてないのに濡らしちゃうし……」




私は少し苦笑いしながらいった。


ああ情けない。
傘くらい天気予報みて用意しとけばよかった。
もしくはクラスの傘立てにある誰のかわからない傘を持ってくるべきだった。

あ、それはちょっとまずいか。





私がそう悔いていると、隣から小さなため息が聞こえた。







「傘に入りたいっていったのはアンタでしょ」






「……え?」

「……俺は濡れたら風呂はいるし」

「……」







「別に、気にしなくていいから」









顔を上げて彼の顔をみる。
相変わらず無表情で、感情は読み取れないけど。





私は少し翔音くんのほうに寄った。
触れた場所同士が私の濡れた右肩のせいでびちゃっとなったけど、彼は嫌な顔ひとつしなかった。




雨で少し肌寒いけど、なんとなく右肩を通して温かみを感じた。





私は自分の口元が少し緩むのがわかった。





(……ぶあぁっくしっ)
(うわ………)
(その明らかに引いた顔やめてくれません)


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