07


HRはちょうど終わりだったようで、私が可哀想なものをみるような目で見られながら席についたあと、すぐにお開きとなった。


不憫だ私。




「大丈夫でしたか芹菜さん?」

「随分とまぁでかでかと顔にガーゼ貼られてるねー」


柚子と玲夢がすぐさま私の机の前にきた。
といっても柚子は私の左隣だし、玲夢は後ろの席だから近いんだけど。



「あはは……ほんとは膝の方が痛いんだけど、みんな顔の方を心配するよね……」


顔はあんまり痛くないけど、膝は歩くたびにズキズキする。
あああ何で私は徒歩通学の学校を選んだんだろう。
ツイてねえええ。



「まぁいいじゃないのさ。平凡で目立たないあんたが今回だけ注目されたんだから!!」

「棘があるよその言葉」

「そうですね。スタート地点で転ぶなんて奇跡的なことが起こらなければ注目されることなど皆無ですものね」

「笑顔でほじくり返すのやめてくんない。ここフォローするとこだよね?何で余計に傷口開くの?」




そんな思い出したくもないエピソードでいじられていると、なんだか教室が騒がしくなってきた。

いや、このクラスだけじゃない。
他のクラスも騒がしいのがわかる。




「え、何みんなどうしたの?」


私達3人が疑問に思っていると、何故か女の子たちが窓の外をみて黄色い声をあげているのが聞こえた。

なんだなんだ、芸能人でもいたか?


私達も一緒になって窓の外をみてみた。
ちょうどこの学園に入るための正面ゲートがみえる。
下校時間のためゲートは開いていた。



その近くに1人を取り囲むようにしている何人もの女子生徒。


あらま、本当に芸能人がいたのか!!



「かっこいいあの人!!誰だろ!?」


イケメン大好きな玲夢がすごいテンション上がっている。
目が輝いてるよ。


「そんなにかっこいいの?」

「すっごいイケメンだよっ!!芹菜もよく見てみな、あの囲まれている人!!紫の頭して目立ってるからわかりやすいっしょ!?」





紫の頭か………、うちにもいるよ。
流行ってるのかな紫に染めるの。


私もよーくその人をみてみた。

確かに紫色の髪をしている。
それにイケメン…………ん?


なんだろう、すごく知ってるような感じがする。



考えればすぐわかることだった。
イケメンはそこら中にいるとしても+αに紫色の髪なんて人滅多にいないだろう。







なーんだ、翔音くんじゃないか。
なるほど、彼なら女の子に囲まれてもわかる。







あれ?翔音くん?



学園に?







「はあああぁぁあぁあっ!!??」




何でいるんだあの美少年んんん。



私の叫び声に驚いた玲夢と柚子をおいて私は教室から駆け出した。


「膝痛ああああ」


ズキズキというかもうグサグサって感じだったけど、とにかく走った。

急いで靴に履き替えて外に出る。


そして女の子たちがたくさんいる場所に辿り着いてぜーぜーとしていると、注目の的の美少年がこっちに気づいた。



しばらく無言状態が続いたが、翔音くんは囲んでいた女の子たちをすり抜けて正面ゲートを出ていった。


え、何しに来たの!?




「ちょ……ちょっと待ってよ!!」


私は慌てて追いかけた。




すっかりオレンジ色に染まった空がとても綺麗だ。

翔音くんは相変わらずすたすたと歩き続けている。
なんとなく隣りを歩くのもあれなので少し後ろを歩く。


というか本当に何で学園にきたんだろう。
私に用事でもあったのかな。

いやその前に何で学園の場所知ってるんだ。


疑問がいくつも頭に浮かびあがってきた。
さっきから無言だし、会話してもいいよね。




「あ、あのさ」

「……」

「何で学園にきたの?」


後ろから声をかけてみた。
どもってしまったのは多分緊張したから。
彼と外で話すことは初めてだし、彼が外で歩くということがなんとなく新鮮に感じたからだ。



「……散歩してた」

「散歩?よく学園までの道がわかったね」

「歩いてたらたどり着いた」

「ほんとに散歩だな」



適当に歩いてただけか。
それで学園に着くって奇跡だ。


翔音くんは今上着をきている。
朔名の上着だから借りたんだろうけど、きっとまだ身体には包帯が巻いてある。



「身体の傷、まだ治ってないのに外歩いてて平気なの?」


私だったら痛くて歩けない。
この膝の傷だけでも痛いのに。



翔音くんはその場で足をとめた。
必然的に私の足もとまる。




「そういうアンタも怪我してるよね」


立ち止まって、首だけこっちを向いて、私の膝と顔のガーゼをみて、彼はいつもより穏やかな口調でそう言った。


夕焼けで紫色の髪がキラキラ輝いている。
赤い目がオレンジ色と混ざっている。
そしてその目が今私をうつしている。



綺麗。
そう思わずにはいられなかった。
全てがオレンジ色に染まるこの世界の中、同じ場所に私達はいるはずなのに。


彼は綺麗だった。




私の少し前にいる彼。
身長はあんまり高いとは言えないけど、その広い背中はやっぱり男の子だなと思う。


その背中とか、立ち方とか、可愛い顔して案外低めの声だとか。
ついつい目で追ってしま………………って、何考えてんだ私はああああ!?




「ここっ、これは……その、体育の50m走で……」

「……体育?」

「う、ん……」



うわあああ、変なこと考えてたら思いっきりどもっちゃったじゃんかよこのやろおおお。

何これ私めっちゃ恥ずかしいじゃん。
もう翔音くんの顔みれないじゃん!!
なんだ私、どうしたっていうの!?



あたふたと焦っていると、翔音くんはくるっと後ろを向いた。
つまり私と向き合うかたちになって……。



えええ、ここでこっち向くの!?
ちょ、空気読んで、ねえ!!



私はおそるおそる顔をあげて翔音くんをみる。
目が合ってドキッとした。

彼は私の顔のガーゼに視線をうつしてまた私の目にもどす。








「マヌケ面」





いつもの無表情で、淡々とした口調でそう言った。
そしてまた前を向くとすたすたと歩いていった。




「………………」


声も出なかった。
鳩が豆鉄砲くらったような顔とはまさに今の私のことだろう。


だんだんと状況がわかってくると同時にフツフツとわいてくるこの苛立ち。



「な、な、なんなんだあいつはああああっ」


綺麗とかかっこいいだなんて思ってた私は馬鹿だった。
前言撤回だ。
もう完全に冷めてしまった。
そうだ、あれはきっと夕日のせいで綺麗にみえたんだそうに違いない!!

あのかっこよさに騙された。
不覚にもドキッとしちゃったじゃない!!
あの場合普通は心配するところでしょーが。
玲夢も柚子もいろいろいったりもするけど、あいつにいわれるとなんか余計にイライラが……。



あーもう、ときめき返せばかやろおおお!!













そんなことがあっても、帰る家は一緒なわけで。



07.オレンジ色の魔法にかかる

(あれ、何々一緒に帰ってきたのかお前ら。あ、もしかして付き合っぐげぶふぅ!!)
(それ以上言ったら蹴り飛ばす)
(蹴り飛ばしてからいわないで……)


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