◎ 05
それぞれ列ごとにテスト用紙が配られる。
問題は20問で1問5点、解答は直接書き込む形式になっている。
制限時間は15分。
なんとかなると思って意気込んだ過去の私は相当な馬鹿者だった。
チャイムが鳴ってテスト用紙は回収された。
私は机にうなだれる。
「芹菜ー、どうだった?できた?」
「………この顔が出来たようにみえる?」
しかも私は白紙で出したのだ。
ちょっとなら解けるかなぁなんて甘いこと考えてたけど一瞬で砕かれた。
難しすぎてわからない。
テスト用紙には“準2級”って書いてあった。
わかるわけないだろーがあああぁぁ!!
「あららぁ、やっちゃったねー芹菜。でも珍しいね、あんたがテスト勉強してないなんてさ」
「あー……うん」
「何々?何かあったー?」
玲夢は相談してほしそうな顔をしているけど、これは話すべきだろうか。
いや、まだ私でさえ頭の整理が曖昧な状況なんだ。
下手に口走るよりかは何もいわないでおいたほうがいいだろう。
「なんでもないよ、昨日の雨でびしょびしょになったからゆっくりお風呂に入ってたらそのまま眠くなって夕飯のあと寝ちゃっただけ」
「あぁ、あれはうちも参ったよ。………それより芹菜、あんた覚悟しといたほうがいいよ」
「?」
覚悟?
私は玲夢の何やら真剣な表情に息を飲んだ。
「今回の漢字テスト、一番最初のテストってことで赤点の人は課題+補習だから」
「……え゛」
「……」
「……」
「……すいません」
はい、ただいま私、芹菜は担任に説教をくらっています。
ああ泣きたい、あの拾い物のせいだくそー。
「俺はまさか藍咲が白紙で出すとは思わなかった……」
「あ……はは、は」
「授業中でも寝ないし、テストは可もなく不可もなく、平々凡々でなんの特徴も見当たらないむしろ見つけるほうが無理難題なやつだと思ってたのに……」
「私のことそんな風に見てたのかオイ」
「……でもまぁ今まで真面目に取り組んできたからなぁ、藍咲は」
私の白紙の答案用紙をみて懐かしそうな顔をする担任。
え、まさか見逃してくれるの!?
「だが課題は別だ。毎回恒例の課題、それから喜べ藍咲!!もれなく俺が漢字の補習を「先生は国語担当じゃありませんよね」…………森田先生が補習をしてくださるそうだ」
ああダメだよこの担任。
私を説教する立場にあるのに途中から嘆いてるよ。
私はまたため息をつく。
本当に幸せ逃げるんじゃないかな。
あの美少年といい、私を疲れさせるのが得意なのか。
ちなみに森田先生というのは私のクラスの現代文の授業を受け持っている教師だ。
59歳のおばあちゃんで、来年は私達3年の卒業とともにこの学校を定年退職される。
私はわりと森田先生が好きだ。
授業もわかりやすくて面白いし何よりとっても優しい。
いつもにこにこしていてちょっと可愛らしい。
生徒からの評判も良い。
けどよく話が脱線して授業が終わることが多いからテスト前は慌てる。
慌ててもなおそののんびりさで脱線するからテスト範囲が終わらなくて範囲を削ることがよくある。
私達生徒からみればラッキーなんだけどね。
多分そういう意味でも好かれている。
私の補習してくれるみたいだけど、補習になるのかな……。
「……ただいまー……」
私はぐったりと家の玄関で崩れ落ちる。
疲れたのと動きたくないのとその他もろもろ。
今日の補習、はっきりいって補習じゃなかった。
予想通り森田先生はお話を脱線された。
“私がこの学校に来たときはねぇ”とか、“そういえばこの学校の桜はねぇ”とか、ゆったりと語り出す先生はとても懐かしそうな表情をするので中々やめさせることができない。
そして何故か担任も参加。
“俺が補習を”とかいっておきながら自分もボロボロなほど酷い出来だった。
うちの担任は数学担当だから漢字を使わないのも頷けるけど。
自分だって人のこと言えないじゃないかといいたいところだが、“数学教師”という肩書きがある以上、数学に関してはプロだ。
平凡な私がいえる立場じゃないちくしょー。
結局ひとつの教室に国語教師と数学教師と生徒という妙な空間で補習を受けた。
今だからいえるけど、全く集中できませんでした。
だいたいその教室に担任がいること自体不可解きわまりない。
私の疲労がたまるばかりだ。
そんなわけで今こうやって玄関で寝そべっている。
あああフローリングの床が冷たくて気持ち良いなあなんて。
「何してんの」
頭上から聞きなれない声がした。
いや失礼、聞きなれないではなく最近聞いたばかりの声だ。
「なんとなく見苦しい」
……どうしてこう可愛げのないことばかりいうんだこの美少年は。
なんとなくだったらわざわざ口に出すな!!
学校でも家でも疲労がたまるって、私に安息の場は無いんですか。
05.追い討ちが痛い
(なんだろう)
(このとどめの一撃)
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